このエントリーをはてなブックマークに追加

シェアリングエコノミーで、経済活動の基盤が企業から個人へシフトする

新しい社会づくりに励む人たちが集うシェアオフィス

[佐別当隆志]一般社団法人シェアリングエコノミー協会 事務局長、株式会社ガイアックス ブランド推進室、株式会社mazel CEO、内閣官房シェアリングエコノミー伝道師

前編で、自宅兼シェアハウスである「Miraie(ミライエ)」を建てた経緯を話しましたが、このMiraieの運営を続けるうち、個人の活動にもっと時間を割きたいと思うようになりました。そこで在籍しているガイアックスの許可を得て、会社の籍はそのままに、シェアを中心とした個人事業を2013年から始めたんです。キャリアの大きな転換でした。

会社は会社でシェアリングエコノミーの可能性に関心を持ち、事業の柱にシェアリングエコノミーを追加。僕はシェアリングエコノミーのイベントを開催したり、メディアを作ったり、ネットワーキングのイベントを開いたりといったシェア関係の業務を手掛けるようになりました。

そんな流れでシェアリングエコノミー推進派の政治家や官僚と縁ができて、業界団体を立ち上げてみてはとアドバイスされました。そこで2016年に立ち上がったのがシェアリングエコノミー協会でした。

Airbnbやウーバーでは多数のロビイストが活躍

ITを使って社会をより良くしたい、そのためにITと政治をつなぐ活動をしたいということは昔から考えていました。ツイッター上の政治家のつぶやきを集めて、模擬選挙キャンペーン* を個人で立ち上げたこともあります。

この時の経験が協会設立で生きました。政治家にアポイントを取ったり、立ち上げの記者会見を議員会館で開いたりといったことをそれほど躊躇なくできたのは、政治との距離感が近かったからです。

僕の役目の1つはIT業界と政界・政府の距離を近づけることだと自負しています。相互理解が進めば新たな政策もシェアサービスも生まれるでしょうし、ひいてはルールメイキングもしやすくなります。法律1つで、今まで参入できなかったビジネスに参入できることもあるでしょう。

海外のイノベーティブな企業はそこを意識していて、Airbnbやウーバーでは多数のロビイストが活躍しています。Airbnbは500人、ウーバーは1000人に上るとか。豊富な人材リソースを世界中に張り巡らし、政治家や官僚とルールメイキングして、ホームシェアやライドシェアの基盤を作っているわけです。これを日本で実践すべく、政治とITをつなげてルールメイキングしていこうと考えたわけです。

まずはシェア市場を周知し、団体としての訴求力を高めていく

協会立ち上げにあたって、官僚や政治家との勉強会を8回くらい開きました。そこで霞が関のルールを教えてもらったりもしました。

例えば、協会が扱うシェアリングエコノミーの対象を何にするか。一丁目一番地は民泊とライドシェアですけど、当時(2015年ごろ)日本では白タクとヤミ民泊の問題に注目が集まっていました。

余計な摩擦を避けるため、まずはスペースや駐車場のシェア、子どもの預かりあい、クラウドファンディング、クラウドソーシングなどを扱ってシェアという市場があることを知ってもらい、団体としての訴求力を高めていくことが肝心だとアドバイスを受けました。

不本意ではあったけれども、確かにうなずける話だったので、民泊とライドシェアという王道はいったん外して、勝てる領域から攻めていったという感じです。

シェアの社会的意義とフラットな関係性で官僚を巻き込む

政治家や官僚の人たちの理解力の高さは想像以上でした。しかも話せばすぐ動いてくれる。スピード感としては民間を超えている印象です。

特に官僚の方のスピードがすごかった。自発的に省内でプロジェクトを作ってくれたり、政策にシェアリングエコノミー推進策を盛り込んでくれたり。「官僚の使い方がうまい」と言われましたけど(笑)、使っているなんて意識はみじんもなくて、信頼関係を築きながらビジョンを話すくらいのことしかしなかったんですけど。

でも、それが良かったみたいです。業界団体というと普通は陳情が多いんですが、僕らはそういうのが嫌で、取り立てて頼み事はしませんでした。後から聞いたところによれば、官僚は命令されるより自由に動く方が好きなんだそうです。目標やビジョンを伝えれば、政策立案のプロとして自律的に、やりがいを持って取り組むと。もちろんシェアリングエコノミーの社会的意義を理解してもらえたことは前提としてありますが、僕らの姿勢が官僚の方々にうまくマッチしたということなんでしょう。

政治家や官僚には、農業体験や牧場でのバーベキュー、手づくり料理でもてなすミールシェアなど、シェアサービスを体験してもらう機会も作りました。昨日も官僚の方と打ち合わせをして、その後ここ(Nagatacho GRID)で酒を飲みながらラーメンを作って食べました(笑)。

シェアリングエコノミーの社会的意義と、実地体験を交えたフラットな関係性から、親身に力になってくれる方が増えて、「シェアリングエコノミー協会の活動は楽しい」「一緒に仕事ができてうれしい」と言ってもらえるようになりました。それはこちらとしてもうれしいことです。

シェアサービスのホストが参画しやすい組織へ軸足を移していく

民泊については曲折があります。2018年に民泊新法がスタートしましたが、その検討の場に僕らシェアリングエコノミー協会のメンバーは呼ばれることなく、結果として家主不在型の民泊がメインという想定外の法律が出来上がってしまった。旅館業界と不動産業界が中心となったためで、家主やホストが滞在する交流型のシェアリング民泊はほぼ度外視されてしまったんです。

民泊にはまだ踏み込むなと言われていたことは確かですが、だからといって大人しくしていた僕らがいけなかった。シェアリングエコノミーの業界団体として、もう少ししたたかに動く必要があったと反省しています。

既存の業界団体は政治家とのつながりも強いし、全国の賃貸不動産会社を動員して政界に働きかけるパワーもある。戦後出来上がった企業中心の社会システムの巨大さが、知れば知るほど分かってきました。

そこで現在は新たな戦略の元で取り組みを進めています。シェアリングエコノミーではサービス提供者=ホストの多くは個人事業主で、急速に増えています。ホストをネットワーク化すれば、短期間で何万、何十万という事業者の団体へと一気に成長することも可能でしょう。

そのためにはホストが参画しやすい組織へと軸足を移していく必要があります。具体的な施策として、企業会員だけでなく、サービスを提供する個人も会員になれるように変えました。また、売上の拡大や税金の納め方、マーケティングやホスピタリティに関するノウハウが学べる講座を開催したり、ホスト同士が交流できるオンラインサロンを構築したりと、運営やサービス向上に役立つサポートも始めていきます。

個人が主役となる社会づくりを進めたい

シェアサービスは利用者のレビューがオープン化されているので、利用者の満足度を高めることが評価に直結します。そこを強調して、業界全体のサービス向上につなげ、シェアリングエコノミーの裾野を広げていきたい。突き詰めれば、個人が主役となる社会づくりを進めるということです。

戦前、戦後、高度成長期と、歴史を振り返れば、国家や企業が中心となってインフラや公共サービスを提供してきました。そういうシステムでは組織やそこに属する人々の立場が強く、個人の生活はないがしろにされ、あるいは収入を気にせず働きたい人や組織に属して働くことのできない人は弱者として排除されがちです。

しかし、インターネットの登場で状況は一変しました。ニーズとシーズのマッチングが容易になり、住む部屋を貸す、車を運転する、ご飯を作るなど、自らのスキルや持ち物を他人とシェアすることが経済的価値を生むようになったのです。企業に就職しなくても稼げるということは、経済活動の基盤が個人中心になりうるということ。シェアリングエコノミーは個人が活躍できる社会をつくるうえで重要な役割を果たすと思います。


一般社団法人シェアリングエコノミー協会はシェアリングエコノミーの活性化に取り組む業界団体。政策提言と環境整備、シェアリングエコノミー認証マークの発行、シェアリングシティ宣言都市の表彰・認定、勉強会・各種イベントの開催などを行う。代表理事は上田祐司氏(株式会社ガイアックス)と重松大輔氏(株式会社スペースマーケット)。2015年設立。
https://sharing-economy.jp/


株式会社ガイアックスは人と人をつなげ、社会課題の解決を目指すことを掲げ、ソーシャルメディア事業、シェアリングエコノミー事業、インキュベーション事業を展開。代表執行役社長は上田祐司氏。1999年設立。
https://www.gaiax.co.jp/


株式会社mazelは、「人を混ぜ、文化を雑ぜ、新たな社会の交差点をつくる」ことをミッションとした会社。CEOは佐別当隆志氏。2017年設立。
http://mazel.jp/

シェアリングエコノミー伝道師は、地方においてシェアリングエコノミーの導入を促進するため、豊富な知見や活用の実績等を備え、シェアリングエコノミーの活用をわかりやすく説明する人材のこと。2018年9月現在、佐別当氏を含めた11名が任命されている。

* ツイッター模擬選挙「Good Net Voting」キャンペーン。

シェアリングエコノミー協会の会員数は2018年7月現在250超。設立3年を迎える2019年には300を超える見通しだ。
また、2018年9月に開催された日本最大のシェアリングエコノミーの祭典「SHARE SUMMIT/SHARING DAY 2018」(一般社団法人シェアリングエコノミー協会主催)には、一般人が参加できるフェスティバルに4,000人が詰めかけ、シェアリングエコノミーに対する社会的な機運の高まりを感じさせた。

オフィスは働くだけの場所ではない。
オープンなダイバーシティ空間であるべき

(取材を受けている)ここNagatacho GRID(以下、GRID)も、僕がオフィス移転責任者としてつくったんですが、ガイアックスのオフィスでありながらシェアを体現する場でもあります。

ガイアックスのオフィスは五反田にあったのですが、移転話が持ち上がり、ならばシェアの要素を取り入れたいと主張しました。海外のシェアリングエコノミー事業者はオフィスがブランディングの重要要素を占めています。例えば、Airbnbは会社とユーザーの距離感が体感できる演出がオフィスに施されている。オフィスは働くだけの場所でなく、オープン化してダイバーシティな空間をつくることが問われているんです。

また、社内で事業をつくるとか、1つの事業を長く続けることには限界があります。新しいビジネスモデルとして浮上したのがインキュベーション事業なんですが、オフィスのオープン化はそれにもいい影響をもたらすと考えました。

ガイアックスは採用力が高くて、優秀な人材が来てくれるんです。そうした社員が事業を成長させて独立・上場するケースも珍しくありません。独立する人を増やして、会社はその株式の一部を出資する形でリターンを得るというインキュベーション事業を推進するなら、会社にいろいろな人が出入りして、従来アプローチできなかった人との接点が生まれ、イノベーションがもたらされるような環境が望ましいというわけです。

新しい社会づくりに取り組む人たちのシェアスペース

検討を重ねた結果、場所は永田町に決めました。日本の中心で人が集まりますし、政治家や官僚、他社とも顔を合わせやすいからです。家賃相場の高さはネックでしたけど、たまたま割安の中古オフィスビルが見つかってそれもクリアできました。

さらに、オフィスの一角をシェアスペースとして貸し出すことにしました。コンセプトは、日本で一番シェアを体験できるビル。さまざまなシェア系企業のほか、国内外のクリエイターが集う「みどり荘」も入居してくれることになり、自然と創発が生まれるような多様性に満ちた空間が出来上がりました。

名前も工夫して、ガイアックスのオフィスビルであることは前面に出さず、GRIDという公共的な空間であることを強調しました。ガイアックスの外で活躍する人を増やすのであれば、囲い込みの感覚がない方が得策だろうと判断したのです。

2017年2月のオープン以来、狙い通りさまざまな人が利用してくれています。NPOやNGO、LGBT団体で活動する人もいれば、ドローンやAIを扱うIT系の企業が記者会見場として使うこともありますし、政治家や官僚も出入りしています。年齢も立場も国籍もバラバラですけど、みんな新しい社会づくりに取り組む人たちばかりで、ガイアックスとしてもいい刺激を受けています。

実践の規模やスピードを上げ、その領域で何かになり続ける

仕事でもプライベートでもシェアリングエコノミーの世界にどっぷりはまっていて、知り合いに「佐別当さんは冷静な戦術家の面と、危なっかしいほどチャレンジングな面が同居している」と言われました(笑)。自分では意識していなくて、そんなものかなと思いますが。

ただ、5年くらい前、大崎のMiraieを建ててキャリアの転換点を迎えたころに、自分のポジションについて思いを巡らせたことがあるんですね。戦略的にプロジェクトを回すビジネスエリートでもなければ、突出したスキルで存在感を発揮する技術者でもない。僕の立ち位置はどこだろうと考えたとき、0から1をつくる体験は人より多くしてきたと気づいたんです。前編で触れたように、ITと政治をつなぐキャンペーンを立ち上げてみたり、大崎のMiraieを建ててみたり、それ以外にも会社の仕事で新規事業創出に多く携わってきました。

自分の特徴を挙げるならば、ビジョンを描く力、着想力があるということになるのでしょう。そこで着想力をさらに高めるために、興味のあることは何でも実践することを心掛けました。実践すると、情報とネットワークが増幅して集まってくるからです。そうやって実践の規模やスピードをレベルアップして、その領域で何かになり続けていけばいい。僕の場合、たまたまその領域として、シェアリングエコノミーという公私で取り組めるものが見つかったのはラッキーでした。

妻には「あれこれ手を出して、大きなリスクを背負って迷惑よ」と文句をいわれますけど、死ぬわけじゃないし(笑)。まあ、リスクに対するある種の鈍感さが人をヒヤヒヤさせるんでしょう。こいつは放っておけないということで、周りのみなさんが力を貸してくれるのかもしれませんね(笑)。

WEB限定コンテンツ
(2018.7.18 千代田区のNagatacho GRIDにて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Kei Katagiri


Nagatacho GRIDのウェブサイト。
https://grid.tokyo.jp/

佐別当隆志(さべっとう・たかし)

1977年、大阪府生まれ。立命館大学国際関係学部卒。2000年、株式会社ガイアックスに入社。広報・事業開発を経て、2016年、一般社団法人シェアリングエコノミー協会を設立し、事務局長に就任。2017年、内閣官房シェアリングエコノミー伝道師に任命される。同年、株式会社mazelを設立し、CEOに就任。家族で自宅兼シェアハウスを運営し、AirbnbのホストとしてNew York Timesなど国内外のメディア掲載多数。日本におけるシェアリングエコノミーの普及・推進と共助社会の実現を目指し、法規制の緩和やユーザー理解の促進に取り組む。政治起業家として個人を中心とした手触り感のある優しい社会を目指している。

 

RECOMMENDEDおすすめの記事

資本主義の成熟がもたらす「物欲なき世界」

[菅付雅信]株式会社グーテンベルクオーケストラ 代表取締役、編集者

開発者に問われる変革のリーダーシップ

[レイモンド・L・プライス×ブルース・A・ボジャック]イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校工学部教授/イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校工学部副学部長・非常勤講師

TOPPAGE
2022年7月、「WORKSIGHT[ワークサイト]」は
「自律協働社会のゆくえ」を考えるメディアへと生まれ変わりました。
ニュースレターを中心に、書籍、SNS、イベント、ポッドキャストなど、
さまざまなチャンネルを通じてコンテンツを配信します。

ニュースレターに登録する