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地域の人々やスタッフの意見を引き出すのが僕の役割

参加者のモチベーションを引き出すマネジメント

[左京泰明]特定非営利活動法人 シブヤ大学学長

5年間活動してきて、いろんなリソースがたまってきました。ここでいうリソースとは、信頼関係です。たとえば、僕らがキャンパスとして授業を行った場所は、カフェや映画館、企業のオフィス、明治神宮など、おそらく300カ所くらいあります。通常ビジネスベースで貸し出しを行っていないところですが、シブヤ大学の活動に賛同して場所を貸してくれるようになったんです。授業をしてくれる先生たちもそう。なるべく渋谷の街の中から見つけるようにしています。ふだん渋谷でさまざまな仕事や活動に従事している方がほとんどです。今では600人以上いるでしょう。この関係性は大きな財産です。

信頼関係は単発のイベントで一朝一夕にできるものではありません。年々活動を継続していく中で、「ああ、シブヤ大学ね」という感じで認知されていくものです。今では区役所や企業、NPOだけでなく、古くからそこにお住まいの町会長さんなどにも面識があって気軽に話ができるようになりました。そういう顔が見えて信頼関係があるということは、地域で活動をする上での最大のリソースなんです。

信頼関係を構築する秘訣は、相手のことを理解し、相手の立場に立って物事を考えることです。NPOの活動は大体社会にとっていいことなのですが、それを前面に出して自分たちの目的や理由を相手に押しつけてはいけません。伝えるよりも聞くほうが大事なのです。企業、行政、町会の方、それぞれ常日頃やらなければならないことややりたいことがあるのに、「僕たちがやっていることは皆さんにとっていいことですよ」と一方的に押しつけられるのは、はなはだ迷惑な話です。

「みんなの意見を引き出す」ためのマネジメント

一緒に活動してくれるスタッフやパートナーの方に対しても、相手の話を聞くことは重要だと思っています。今、フルタイムのスタッフは僕を含めて2名だけです。有償のパートタイムのスタッフが30名くらい、無償のボランティアスタッフが150名くらいいます。パートタイムの人もシブヤ大学の仕事を常にしているわけではなく、さまざまな活動の1つとしてシブヤ大学のことをやっています。ボランティアスタッフは平日さまざまな会社などで働いている社会人の方がほとんどです。

だから場合によっては、「もう来月から行かない」と簡単に言えてしまうわけです。そうなるとNPOの活動はたちまち立ちゆかなくなります。どうしたらそういうスタッフに主体的に関わってもらえるのか。そこが非常に大事になります。

シブヤ大学では、当初からみんなで参加して作ることをすごく大事にしてきました。開校当初、教室の雰囲気はどうあるべきかという議論をしました。なかなか良いアイデアが出なかったのですが、あるボランティアスタッフの女の子が「自分の直接の友達じゃなくて、ホームパーティーに来た友達の友達との距離感のような感じがいいんじゃないか」というヒントをくれました。今も僕たちは、理想的な授業の雰囲気を「ホームパーティーのような感じ」とし、僕たちは「そのなかでホストとして存在する」というコンセプトで運営しています。

マネジメントの手法として、トップダウンは一つの手です。方向性や戦略はすべてトップが決めてしまう。そのほうが有効な面もあります。でも、僕たちはみんなで考えながら、1つずつ作ってきました。これがすごくシブヤ大学のやり方の特徴です。僕はファシリテーターというような役割になり、みんなの意見を引き出していくという感じですよね。

声が大きい人や、すでに何か経験がある人の意見を採用する方が早いんですが、それではそこで思考が止まってしまうし、あまり楽しくない。やはり時間がかかっても、みんなで意見を出し合ったり、工夫し合うこことを大切にしています。授業に限らずさまざまなプロジェクトもそう。これがシブヤ大学のやり方なんです。

渋谷区を拠点に生涯学習の機会や場所を提供するシブヤ大学。講師は渋谷にゆかりのある人が中心で、人同士のつながりをつくり、街との関係性を育むための活動を積極的に展開している。授業は、WEBで学生登録(無料)を行えば、誰でも受けられる。ただし、応募者が多い授業は抽選予約制となる。
http://www.shibuya-univ.net/

シブヤ大学は2011年で6年目を迎える。2011年末時点で講師数は674人、講座数は692にのぼる。参加者は計19,995人で、「大ナゴヤ大学」や「京都カラスマ大学」「福岡テンジン大学」など、全国に9校の姉妹校を持つ。

棚の上に載っているのは、シブヤ大学3周年記念の時計と、グッドデザイン賞の盾。2007年、地域密着型の新しい教育学習システムが評価され受賞した。

共通のメーリングリストで
横断的に情報をシェアしていく

ボランティアスタッフを含めた150名全員の話をしっかり聞けているかというと、じつはかなり難しくなってきています。スタートの頃は顔と名前、パーソナリティがわかる規模でした。でも、これだけ増えてくるとなかなかそうもいきません。どうしたらよいかというのはまだ模索中ですが、まずはメーリングリストを作ることから始めようと思っています。

今、シブヤ大学にはさまざまなプロジェクトチームがあります。授業チーム以外にも、原宿表参道キャンパス、恵比寿キャンパスといった地域ごとのチームや、仕事課チームなど……。さまざまなサービスを提供するためのプロジェクトチームが個々に動いています。プロジェクトごとの情報交換は頻繁に行われていますが、シブヤ大学全体を通した横断的な情報シェアをする手段があまり確立されていませんでした。

今回考えているのは、ボランティアも含めたすべてのスタッフやパートナーさんに送信できるメーリングリストです。そこにあらゆるプロジェクトの議事録や進捗状況を流し、場所も時間も関係なく情報をシェアできるようにします。もちろん、プロジェクトごとのメーリングリストは残すのですが、それは任意で、どのメーリングリストにも興味があれば追加参加できるようにします。

それと、現在、年間の活動を紹介した「アニュアルレポート」の作成にも着手しています。もちろんNPO法に定められた事業報告書はありますが、事務的な報告になるので読んでいて楽しいものではありません。だから、僕らが今どんなことを考えていて、何に取り組んでいるのかを分かりやすくまとめたものを作っているところです。

ふだん会えないからこそ、雑談ができる場を作りたい

普通の会社と違って、シブヤ大学のスタッフは普段、バラバラの場所にいて、別の仕事をしています。だから個々人で見ると、シブヤ大学の活動に割ける時間や労力は限られています。その少ないパーセンテージがたくさん集まることによってシブヤ大学は成り立っています。だから、会議やブレストに参加できなかった人と、どれだけその場の内容や雰囲気を共有できるかというのが大事なんです。

そのためには、雑談の場があるといいのかもしれません。シブヤ大学のスタッフはずっと顔を合わせているわけではないから、雑談が起きにくいんですよ。会社の中でも意外と雑談が役に立つこともあるじゃないですか。きっちり分けられた部署同士ではあまりコミュニケーションがないけれど、タバコ部屋の雑談でいろんなことが決まったりとか。同じ場所にいない中で、どうやって雑談を起こすか。それが今の課題ですね。

たとえば、スタッフ同士の勉強会もその一つ。街づくりやNPO、生涯学習といったテーマでもいいし、まったく関係のない題材でもいい。勉強会を通じて、スタッフ同士の新しいつながりができるでしょう。あるいは、「シブヤ大学の学食」をつくるのもいいかもしれない。仕事や活動が終わったあとそこに集まって、みんなで食事をしながら雑談をするわけです。あるいはバーチャルな部分で、ファイスブックやツイッターを活用して擬似的な広場をつくれるかもしれない。こんなふうに、いろいろ考えているところです。

ITが発達した現代、会社経営でも各社員が個々の判断でバラバラに動けばいいじゃないかという考え方があります。大きな流れとしては、そのほうが効率的だし、可能性も広がると思います。それでも、人が集まって何かをやることにも、大きな可能性があるはずなんです。そこを探っていきたいですね。

シブヤ大学の成功は、企業のあり方を変えるかもしれない

シブヤ大学の魅力は、プロセスの楽しみにあります。みんなで目的、目標を共有して、一緒に作り上げていくという過程です。活動を通して、先生や生徒同士、新しい仲間ができて、輪が広がっていくという楽しみもあります。だから、誰かの役に立っている、喜んでもらっているというフィードバックがあります。それはさらにやりがいや喜びを加速します。これは普通の仕事であっても同じだと思うんです。

普通、企業では会社全体が目標とする利益があって、そこからブレークダウンして個々人のミッションが決まります。NPOの場合、それだとあんまりうまくいかないんですね。目標だけでは、モチベーションが続きません。ところが、逆にボトムアップで自由を尊重しすぎてもダメなんです。計画もなく日々を積み重ねていると、ある時点で振り返ったときに「これ、何だっけ?」とぼんやりしてしまうんです。やっぱり、ある程度の背伸びが必要になります。NPOの難しさは、その微妙な案配にあります。

NPOのマネジメント手法って、まだ完全に確立されていないし、教えてくれるところも少ないんです。だから実践しながら、ほかのNPOの 方々と実務を共有しながら、一緒に考えていくしかない。それはイノベーションといえば、そうかもしれませんね。お金以外の、人が仕事に感じる喜びややりがいを軸にしたマネジメントは、これからの社会で必要になってくると思っています。喜びややりがいは、NPOや企業、あるいは行政とか、もっと大きなところにも通じる、普遍的な価値だと思うんです。どうしたらスタッフにクリエイティビティを発揮して働いてもらえるか。事業の継続性を担保するには、どうすればいいのか。もしシブヤ大学で新しい手法を確立できれば、それは企業も取り入れると思います。そうすると、働き方や社会のあり方が少しだけ変わるかもしれない。そんなことを考えながら、やっています。

WEB限定コンテンツ
(2011.12.22 神宮前の同社オフィスにて取材)

2011年1月に行われた「みんなの図工室10~笑顔を伝える、マンガ描きかた入門~」の様子。講師は漫画家でイラストレーターの中山蛙さん。似顔絵やマンガの書き方を習うことができる。
写真提供:シブヤ大学

定期的に行われている「おとなの社会見学シリーズ ~東京競馬場に行こう!~」第9回の様子。東京競馬場を教室に、競馬博物館やパドックの見学のほか、初心者向けに馬券の買い方、倍率の考え方などをレクチャーしてもらえる。
写真提供:シブヤ大学

左京泰明(さきょう・やすあき)

シブヤ大学学長。1979年福岡県出身。早稲田大学でラグビーに所属、4年次にはキャプテンを務め、全国大会準優勝を果たす。卒業後、住友商事株式会社に入社。2005年に同社退社後、特定非営利活動法人グリーンバードを経て、2006年9月、特定非営利活動法人シブヤ大学を設立、現在に至る。著書に『シブヤ大学の教科書』(シブヤ大学編、講談社)、『働かないひと。』(弘文堂)がある。 http://www.shibuya-univ.net/

 

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