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スタートアップとともに
業界変革を狙う巨大金融機関

[Barclays]London, UK

伝統ある金融の街ロンドンに拠点を置く国際金融グループ、バークレイズが運営するオープン・イノベーション・プラットフォーム、それがライズだ。

「フィンテックのパイオニアの成長、繁栄、そして成功をサポートしたい」と宣言しているライズは、そのための機会と場を起業家に提供している。一つは、13週間に及ぶアクセラレーター・プログラムだ。これは、アメリカの著名アクセラレーターであるテックスターズとの共同事業。テックスターズには、世界168カ国に1万4000の起業家とコーポレート・パートナー、投資家とのネットワークがある。そして、一方のバークレイズには、金融機関として326年という歴史が培った信用とスキルが。これら恵まれたリソース全てが、プログラム参加者のものになるのだ。金融や法律、ビジネスなどに精通した各メンターからのサポートやオフィスは全て無料で提供され、クライアントやカスタマーがどんな金融サービスを求めているかも学ぶことができる。

バークレイズがライズを誕生させた背景には「レガシーと呼ばれて久しい銀行をどう活性化するか」という問題意識がある。金融分野のテクノロジーであるフィンテックの飛躍により、金銭の管理も融資も、銀行に頼らずとも簡単にできるようになった。こうした時代の変化に、バークレイズもまた危機感を募らせていたのだ。ならばどうするか。彼らが選んだ道は次のようなものだ。「フィンテックに代表されるテクノロジーと折り合いをつけ、そこで見出した新たなビジネスの可能性を、バークレイズに還元する」こと。

フィンテック企業が次々と立ち上がり、金融サービスの領域に破壊的なイノベーションをもたらしている。だがそれに対抗しようにも、レガシーたるバークレイズはテクノロジーを活用できるノウハウと人材を自前で調達するすべを持たない。そこで彼らはスタートアップなど外部との接点を作り、事業機会を提供することに活路を見出した。フィンテックとコラボレートできる施設「ライズ」を、スタートアップで盛り上がる世界各都市に立ち上げたのである。結果、グローバル規模でのフィンテックとのコネクションを手にし、自社サービスのテック化に成功した。

ロンドンのライズは、テック企業が集積するオールド・ストリートと、流行発信地ショーディッチの中間点にある。

  • アクセラレーター・プログラムで選抜されたスタートアップには、期間限定でオフィスが与えられる。ここで働くのは決済サービス「ShieldPay」のメンバーたち。

  • エントランスを入ってすぐにあるカフェテリア。世界を代表する金融機関が作った施設とは思えないカジュアルでオープンな空間だ。

  • イベント前になると、プレゼン準備に余念のない起業家の姿がそこかしこに。

  • ライズ内の至るところに設けられたタッチダウンスペース。来訪者や起業家が作業する姿が見られる。

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カジュアルなコラボレーションの場として
デザインされた「ライズ」

彼らのお膝元とも言えるここロンドンのライズは、金融街であるシティではなく、ロンドン版シリコンバレー(シリコン・ラウンドアバウト)のオールド・ストリートと若者カルチャーの発信地であるショーディッチの中間点に位置する。これは世界でニューヨーク、テルアビブ、ムンバイなどに次ぐ7つ目、イギリス国内では2つ目となるライズだ。施設はカジュアルなコラボレーションの場としてデザインされている。選抜されたスタートアップたちに与えられる占有オフィスがあるほか、オープンスペース、ミーティングスペース、ピッチが開催できるイベントスペースなど、施設内での交流を促す空間作り。フィンテックが結集するコミュニティ内でコラボレーションが起きれば、イノベーションはさらに加速するだろう。

バークレイズのCOO兼CTO、マイケル・ハート氏は次のように語っている。

「大手金融機関の破綻などにより、金融機関が信用を失った時期もありました。それを受けてレギュレーター(金融監督機関)が介入するようになり、それは金融サービスのあり方を変えるきっかけにもなりました。フィンテックもレギュレーターとともにサービスを開発する必要があります。そして新しいベンチャーが参加することで、顧客に望まれているサービスを生み出すことが可能になるのです。レギュレーター、フィンテック、コーポレート・パートナー、そしてバークレイズの商品開発チームが協力し合うことなしに、未来の金融サービスを構築することはできません」

  • スタートアップのピッチ(投資家へのプレゼン)やフィンテック関連のイベントがしばしば開催され、企業同士のコミュニティの発展に貢献している。

  • オープンコミュニケーションエリア。投資家や銀行関係者とのミーティングが行われている。

  • インテリアのテイストはカジュアルではあるが、崩しすぎない上品なもの。

  • 起業家、投資家、大企業関係者とのマッチングを狙ったイベントも頻繁に開催される。

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  • バークレイズが展開するコワーキングチェーン「イーグル・ラボ」も同居。ここではメイカーズ(個人で営む製造業者)のためのファブ・スペースを提供している。

  • イーグル・ラボの利用者は、拠点を横断してコワーキングスペースを利用することもできる。

  • ライズ内にはさまざまな形のタッチダウンスペースが設けられている。

  • ホスピタリティの高いスタッフが常駐している。

  • 提供されるフードも洗練されており、コミュニケーションの演出に一役買っている。

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イノベーションを支える
メイカーズ向け施設「イーグル・ラボ」

なおバークレイズにはもう一つ、起業家とのチャネルがある。コワーキングスペース「イーグル・ラボ」がそれだ。

こちらはフィンテックに限らず、メイカーズが主な入居者。現在まで、イギリス国内に12拠点を開設している。3Dプリンターやレーザーカッターなどの機械があり、ここで製作作業ができる。各機材を使って自分で製作するか、スタッフのサポートを受けるか、ラフデザインやアイデアをもとに製作を頼むかなど、利用の仕方によって料金体系が変わる。メンバーになるとプロトタイプの製作など技術面でのサポートのほか、ビジネスの立ち上げ方、ネットワークの広げ方などの指導も受けられる。

どのイーグル・ラボでもワークショップが開催されているが、地域の特徴とニーズに応えているため、内容はまちまちだ。置かれている機材も異なる。例えば、ブライトンはクリエイティブなメーカーが多いため工作機械を、エレクトロニクス系が多いケンブリッジははんだ付けの機械などを、IT系が多いロンドンにはレーザーカッターなどを揃えているという。

フィンテック中心のライズとメイカーズ中心のイーグル・ラボ、形は違えどイノベーションと成長の支援という狙いは変わらない。そこで得られた果実はバークレイズをも成長させることになるだろう。彼らがビジョンに掲げている通り、「社会が繁栄するときは我々みなが繁栄する」のである。

コンサルティング(ワークスタイル):N/A
インテリア設計:N/A
建築設計:Hale Brown

text: Yusuke Higashi
photo: Taiji Yamazaki

WORKSIGHT 12(2017.12)より

イーグル・ラボで生まれたプロトタイプの一つ。これは子ども用の義手で、3Dプリンターで作るとわずか7ポンドの材料費で済むという。

同じくプロトタイプ。船の動向をトレースするシステムで、位置だけでなく温度や湿度などのデータも送信される。こちらはわずか2週間、750ポンドで開発できた。

 

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