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コミュニケーションを否応なく誘発する
全長250メートルの「机の森」

提供するサービスと密につながるオフィス

[片桐孝憲]ピクシブ株式会社 代表取締役社長

創業以来、組織の拡大に合わせてオフィスを3回移転しています。最初の2回は予算が限られていたから、とにかく安くて広いスペースを求めていたんですけど、3回目の2010年9月にこのビルに入居できることになって、どんなオフィスが働く環境にとって良いんだろうと考えるようになりました。

経営者によっては働く環境に興味がない人もいるでしょう。とりあえずオシャレな雰囲気にしておけばいいだろうとかね。でも僕は自分たちの提供するサービスと、オフィスの環境や制度とは、切っても切れない関係にあると思っています。

僕らが提供しているのは、投稿イラストを通じてユーザー同士がコミュニケーションを深めるウェブサービスですから、サイトが盛り上がるにはどうしたらいいかと日々考えているわけです。同じように、そこで働く人がより良いモノを作れるように、pixivっぽさというのはこんな感じだろうという視点でオフィス環境を考えました。

物理的な距離で活気が変わることを実感

自然と人が集まるようにモノの配置を考えたり、みんなのテンションが上がるように配色を工夫したりして、ひとまずは最初に決めたコンセプト通りのものはできました。

ただ、失敗もありまして。むちゃくちゃいい環境を作ろうと、社員みんなの机を横幅140センチにしたんです。前のオフィスでは横幅120センチでしたから、スペースが広くなって、これで全員大満足だろうと思った。ところが実際に机を並べてみると、すごいスカスカして、職場の活気がなくなった感じがしたんですね。物理的な距離ってすごい大事なんだなと実感しました。

その2年後、2013年春に今のオフィスでフロアを増床できることになって、ついでだからと机も取り替えたんです。でも元の横幅120センチの机に戻すんじゃつまらない。もっと混沌として、否応なくコミュニケーションが誘発されちゃうような、そんなオフィスができないかと考えたんです。

中に入ると簡単には出られない「机の森」

それで、2010年のオフィス設計のときから相談にのってもらっているチームラボアーキテクツの河田将吾さんにポエムを送ったんですよ。タイトルは『机の森』。雑然と並ぶ机の中に足を踏み入れると簡単には出られない。みんなのモニターの前や机の周りをぐるぐる回るうちに、面白い画像とか、かわいいフィギュアが目に入って足を止めずにいられない。「これ面白いね」とか「かわいいじゃん」みたいな声もかけやすくて、みんなのテンションが上がる、結果として仕事がはかどるっていう(笑)。入り込むのがインターン生だったら、みんなが声をかけてくれて入社したくなるとかね。そんなポエムを送ったんです。

そうしたら河田さんが「同じようなことを考えてた」って言うから、すっかり意気投合しちゃって。じゃあ思い切ってグニャグニャにしちゃおうって。そうやってできたのが、全長250メートルの1枚板の業務机です。

実際に歩いてもらったら分かるけど、本当に密集してるから、ついみんなに声をかけたくなるんですよ。この環境になって5カ月くらい経ったけど、未だに誰がどこにいるかよく分からない(笑)。それくらいゴチャゴチャしているけど、そこがいいんです。

大事なのは、みんなのテンションが上がって、ディスカッションが盛り上がって、コミュニケーションが生まれやすいこと。それがオシャレかとか、会社っぽいかどうかは二の次ですね。そういうことはクリエイトに直結しませんから。

pixiv(ピクシブ)は「お絵かきがもっと楽しくなる場所」を理念としたイラストコミュニケーションサービスだ。
http://www.pixiv.net/

ピクシブ株式会社では他にもイラスト漫画文化を主軸としたwebサービス事業やイベント事業を展開している。
http://www.pixiv.co.jp/

オフィスのいたるところに現代アートがあって社員を触発する。ページ冒頭の画像、片桐氏の背後の「YES」が散りばめられたデザインワークも、NY在住のアーティスト、ジュリア・チャン氏の作品だ。

ピクシブのオフィス風景。まがりくねった机に向かって社員が作業に励んでいる。トンネル状に隆起した箇所は出入り口。

同社のオフィスについては3月10日更新のWorkplace記事で詳しく紹介する。

個人の裁量をあえて狭めて協働を促す
時代と逆行するオフィス

IT業界で、働く場所と時間を自由にしていく動きがあるじゃないですか。うちの会社はそれとは全く逆を行っています。

こういう密な空間で、みんなが集まって仕事することを重視しているので、出社時間は全体で合わせています。フレックスだと、どうしても出社がバラバラになりますからね。11時には全員が揃って、チームみんなで顔を合わせてミーティングするのが決まり。だから在宅作業も基本的に認めていません。

毎週水曜日には、みんなで一緒に昼飯を食べます。席が足りない場合は床にシートを敷いてピクニックっぽい感じで。席は社員が作ったシステムでランダムに決めます。普段話さない社員と話すきっかけになるし、「うちの会社、毎週水曜日に全員でランチやってますよ」と言えばゲストも誘いやすい。社外で会った面白い人や学生をランチに呼んで、社員とコミュニケーションしてもらえば、何かにつながるかもしれないし。

たまに「オシャレなオフィスですね」と言われますが、見ての通り全くオシャレじゃない。全然そんなことない。徹底してパフォーマンスを追求しているんです。

オフィスにリラクゼーション機能は必要ない

リラックスする空間でもないし、人が密集することで多少ストレスがたまってもいい。それより、いいクリエイティブができるか、いいアイデアが生まれるか、ディスカッションが盛り上がるか、そういうことのほうが圧倒的に重要です。にも関わらず、世の中のオフィスは居酒屋とかカフェみたいな、オシャレな内装になっている。

息抜きしたくなったら、ちょっと外に行けばいいんですよ。散歩するとかスタバに行くでもしたほうが断然いい。都心なんて、いたるところに飲食店がありますからね。社外の施設には絶対に勝てないわけで、そういう状況で会社の中に食堂を作る意味がまったく分からない。

もっとも、うちの場合、社員には会社の近くに住むことを勧めているんです*。疲れたら家に帰って休めるので、それもオフィスからリラックススペースを排除できる要因になっているでしょうね。オフィスの内装だけで良いとか悪いとかいうのもナンセンスだと思っていて、オフィス空間と会社の制度・雰囲気はセットだと思うんです。

ただ、いろいろ言ってますけど、僕の社内でのリーダーとしての存在感は微妙です。社員にからかわれることもしょっちゅう。僕の行きつけの定食屋で手作り梅干しをもらって、それで社員が僕におにぎりを作ってくれると言っていたんですけど、みんな食べちゃって僕に1つも残してくれなかったんです。ショックすぎて、おにぎりがトラウマになりました。

たけし軍団みたいに強烈な存在感でヤンチャなやつらを統率する会社に憧れがあったけど、結局できたのはムツゴロウ王国だったかも。たまに噛まれたりしてね(笑)。でも、面白い人たちを集めているのは確か。すごいチームを作っているという自信は間違いなくあります。

WEB限定コンテンツ
(2013.12.17 渋谷区のオフィスにて取材)

*住宅手当
ピクシブでは、会社から徒歩10分圏内(800m以内)に住めば5万円、自転車で15分圏内(2,500m以内)に住めば3万円が補助金として支給される制度がある。社員の8割近くが利用しているという。

片桐孝憲(かたぎり・たかのり)

ピクシブ株式会社代表取締役社長。1982年静岡県生まれ。2005年Webシステム開発会社を創業。2007年イラスト・コミュニケーションサービス「pixiv」をリリース。2013年からコスプレコミュニティサイト「cure(キュア)」の開発・運営も手掛ける。http://www.pixiv.co.jp/‎

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