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「人」の力でデジタル分野ナンバーワンを目指す
豪州最大のメガバンク

[CBA]Sydney, Australia

約5万人の従業員を擁するオーストラリア・コモンウェルス銀行(Commonwealth Bank of Australia/CBA)は、豪州最大の銀行だ。その新オフィス「CBA Axle」はシドニー市内に点在していた拠点を再開発エリア「サウス・イヴリー」に集約することを意図したもの。「デジタル分野でナンバーワンの銀行になる」との経営戦略を掲げる同行は、社員同士の距離を近づけコラボレーションを促そうと考えた。延床面積4万3,000㎡、フロア当たり6,000㎡のオフィスに約4,000名が勤務する。はす向かいに新たにオープンするビルも合わせれば1万人をこのエリアに集める予定だ。

もっとも、これだけの広さになると単一のオフィスというよりシティキャンパスと捉えるのがふさわしい。「素晴らしいデザインの建物だけでなく、素晴らしい場所そのものをつくることが目標でした」と話すのは、ワークプレイスのデザインを担当した設計事務所ウッズバゴットのシニア・アソシエイト、ブラッドリー・リー氏。サウス・イヴリーには、スケートパークにテニスコート、バスケットコートにツリーハウスと、地域に開かれたスペースがふんだんに設けられている。CBAが運営するキッチンスペースで得られた収益も、すべてチャリティに寄付されているという。

「つまり、私たちは地域における『良き隣人』でありたいと思っているんです」と語るのは、CBAのエグゼクティブ・マネージャーを務めるローレンス・チェン氏だ。このようにプレイスメイキングに積極的な企業は、若者たちの目にも魅力的に映る。近隣にあるシドニー大学やニューサウスウェールズ大学から難なく人材を集められるのはそのためだろう。彼ら若き才能こそ、デジタル分野ナンバーワンを目指すCBAにとって最良のアセットとなるのは言うまでもない。

「勤務後にジムや病院、ショッピングセンターに行きたいと思えばすべてが近くにある。これらすべてが、よい職場づくりにおいての重要な要素となっています」(チェン氏)。ワークプレイスは単なる仕事場ではない、ということなのだろう。

建物内に目を転じよう。GF(地上階)のプラザは社外のワーカーも含めて自然と人が集まり、コラボレーションが誘発される場所だ。上階のオフィスにはABWが導入された。ABWにも人の自由な移動とコラボレーションを促す狙いがあるが、オープンプランにすれば十分とはしなかった。例えばワーカーの性格の問題。内向的で協業を得意としないワーカーからもコラボレーションを引き出すにはどうすればいいか。周囲がにぎやかでも、匿名的に、静かに仕事ができる場所が必要だ。カーテンやブースで仕切り、プライバシー重視のスペースを確保したのはそのためだ。

オフィス外観。フロアあたりの面積は約6,000㎡だ。「サッカー場より少し広いといえばわかりやすいでしょうか」(リー氏)

  • 巨大な谷を思わせるダイナミックな吹き抜け。三方を取り囲むオフィスに、トップライトから自然光が差し込む。視認性を高めることで職場全体のエネルギーを感じられるしかけ。

  • カフェテリア。食事をとる者もいれば、PCで作業をする者も。カフェテリアに限らず、内装は木材を多用した温かみのあるトーン。植栽の数も3,800点を超える。

  • エントランス近くの、ワーカー向け作業スペース兼リラックス・スペース。オープンスペースの多かったABWを洗練させ、コラボレーションをサポートするために設けられた。

  • 上階から見下ろしたGF(地上階)の「プラザ」には、カフェやミーティングルームなど、人が交流するスポットを集めた。ゲストも社員とともに使うことができる。

  • 吹き抜け越しに、各フロアで働くワーカーの様子を見渡せる。自分がどこにいても人の動きや存在を視覚的に感じられる構造。

  • オフィスの入退室やロッカーは自社開発のアプリで管理。ファシリティの不具合が見つかれば壁にあるQRコードからその場で報告することができる。これにより効率的なファシリティマネジメントが可能になる。

  • どこで誰が仕事をしているのか、PCをLANケーブルにつなぐことで位置を把握することができる。集められたデータは利用頻度などを参考にファシリティの数や位置を改善するのに活用される。

  • ファシリティチームが主に使うエリア。ベーシックなデスクのほか、昇降式のデスクが確認できる。巨大なホワイトボードには、フロアのディバイダー(仕切り)の役割も。家具類は既製品ではなくカスタムメイド中心。

  • オフィス中央にある階段状に座席が並んだシアタースペース。毎日のようにイベントが催され、にぎわいをオフィス全体に届けている。取材当日は「健康的な食事」をテーマにしたセミナーが行われていた。

  • デザインも動線も流線的。「自然界に『直線』はありませんから」(リー氏)。この天井も流線的なデザインを取り入れている。多くの植栽とともに自然からヒントを得たバイオフィリック・デザインが随所に施されている。

人々の性格までも加味した
2.5世代目のABW

実は、彼らが実践するABWはこれが2.5世代目だという。第1世代は7〜8年前に始めた単純なオープンオフィス、第2世代は目的に合ったオープン主体の多様なワークプレイスを準備。しかしそれだけではワーカーのパフォーマンスを引き出せないとして、新たに第2.5世代では内向的/外向的という人々の性格まで加味したというわけだ。

「ABWは柔軟性を生み、スタッフのエンパワーメントとエンゲージメントを高めました。働き方や場所に対する選択肢は、ワーカーへのアンケートの中でも毎回、CBAで働く最も大きなメリットとして挙げられています」(チェン氏)

最新のテクノロジーがそれと目立つことはないが、昨今のスマートワークプレイスらしく、入館の受付や席の予約などは自前のアプリを通じて行う。デジタルバンクを目指す彼らはワーカーにも最高のデジタルUXを提供しており、そのデータは建物内の利用効率や施設の利用頻度の把握に使われるという。

「データを見ることができるので、各階で使われていないスポットを把握できます。例えば、あるデスクが6カ月間ほとんど使われていないというデータがあったとします。ヒートマップのデータを通してそのデスクが壊れていたとか、何らかの理由が見つかるわけです」(チェン氏)

ここは人が自由に柔軟に働くためのキャンパス。それも、ベビーブーマーからジェネレーションX、ミレニアル世代まで全世代、またさまざまな障がいを抱えたワーカーも働く場所だ。その意味で彼らはテックジャイアントとは違うインクルーシブネスを求められる。「ミレニアル世代にアピールするためだけの単なるクールなデザイン」(リー氏)はあり得ない。

スタッフが変化に適応できるよう、デザイン作業は慎重に行われた。中には自分のオフィスやワークステーションに慣れ親しんできたスタッフもいる。彼らは自分専用のデスクを失ったのだ。しかし、ワークスペースの計画の展開について定期的にスタッフに知らせることで、「取り残された」と感じるワーカーがいないことが確認できた。このキャンパスは地域のもの。そしてすべてのワーカーのものなのだ。

シービーエー
コマーシャル・デザイン&デリバリー・グループ
エグゼクティブ・マネージャー
ローレンス・チェン

ウッズバゴット
シニア・アソシエイト
ブラッドリー・リー

  • ABWでの働き方に慣れ、適応できるよう、入社したばかりの新しいワーカーには特別なトレーニングが施される。

  • エントランス近くのラウンジスペース。社員や社外の人とのコラボレーションを誘発する目的でGF(地上階)近くにコミュニケーションスペースを集中させている。

  • 「パーゴラ」と呼ばれる執務エリアに置かれたコミュニケーション・ハブ。ドリンクやスナックなどでワーカー同士をつなげる役割を果たす。

  • スケートパークをはじめとするパブリックスペースを周囲に用意した。地域、オフィスとは遊歩道で結ばれ、ビジネスとコミュニティのつながりが示されている。

  • サウス・イヴリー内、CBA Axleのはす向かいに2021年完成予定の新しいビル(延床面積約5万5,000㎡)。「オーストラリアで1番か2番の広さの建物になる予定です」(チェン氏)。完成次第、CBAのデジタル系スタッフが移動し、CBA Axleと合計で1万人が勤務する予定だ。

  • GF(地上階)のプラザ。手前にあるのはカフェスタンドだが、奥のラウンジやシアタースペースとの間に境界らしい境界が見当たらない。ノンテリトリアルな人の移動を促す狙い。

新しいイノベーション・ディストリクト「サウス・イヴリー」

シドニー郊外にある「サウス・イヴリー」は、かつて蒸気機関車の工場で栄えたエリア。オーストラリアを前進させた多くのインフラはここでつくられた。時を経て一度は廃れたこの街だが、いまは不動産デベロッパーであるマーバック、そしてAMPキャピタルとサンスーパー、センチュリア・プロパティ・ファンドとのコンソーシアムの手による再開発の途上にあり、オーストラリアの新しいイノベーション・ディストリクトとして、再び多くの人を引きつけようとしている。テニスコートや農場など、各種スポーツ施設やレクリエーション施設を多くの人々が楽しむエリアとしても注目される。いずれスーパーマーケットや美容院、ジム、屋外カフェなどが混在する9つの商業ビルが完成する予定だ。シドニーの先住民「ガディガル」に敬意を払い、地域コミュニティとのつながりを重視しているのも特徴の1つである。

text: Yusuke Higashi
photo: Hirotaka Hashimoto

WORKSIGHT 16(2020.7)より


© Eberle Photography

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