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世界最大級の木造オフィスビルは
ワーカーのもう1つの「家」

[Aurecon]Brisbane, Australia

ブリスベンのCBD(中央業務地区)から1.6kmの距離に、デベロッパー大手レンドリースによる巨大再開発「ショーグラウンド」が進められている。計画が立ち上がったその頃、建設エンジニアリング会社のオーレコンは、CBDにあったオフィスビルのリースが切れ、社員700人のための新しい場所を探していた。レンドリースとは過去、複数のプロジェクトをともにした縁がある。レンドリースとともに木造高層ビルの設計と建設に協力できることはオーレコンにとって渡りに船であり、同ビルの建築管理エンジニアリング、サステナビリティ・コンサルティング、構造設計などはオーレコンが手がけた。

オーレコンが新オフィスに望んだのは、年月を経ても安全で強固な建物であること、スタッフが気持ちよく働けること、そして革新的なデザイン。各国で木造高層ビルの建設が進む昨今だが、高さ52m、現時点で世界最大級の木造オフィスビル「25 King」はすべての条件を満たしていた。

何より大切にしたかったのは、ある種「エンジニアリング会社らしくない」親しみやすさだ。「職場に来てほっとする、また職場に着いたときより仕事が終わって家に帰るときのほうがリフレッシュされているような、『ホーム』のような空間をつくり出すこと」とオーレコンのシニア・プロジェクト・エンジニア、フィリップ・サール氏は言う。確かに木造ビルは「オフィスビル=コンクリート」という冷たいイメージを覆してくれるものだ。都市の喧騒を少し離れた再開発エリアも雰囲気にマッチしていた。GF(地上階)部分を見ても「ホーム」の意図は伝わってくる。家具がルーズに配置されたオープンスペース。家具を用途に合わせて自由に動かすことで、コミュニケーションをカジュアルに、スムーズにする。以前のオフィスと目立って違う点がもう1つある。オーレコンのオフィスの内装設計を担当した設計事務所ウッズバゴットのアソシエイト・プリンシパル、サラ・マクマホン氏によれば、最近のオーストラリアにはオフィスを高層階から低層階に移すことを望む傾向があるようだ。オーレコンの意向も同じだった。

「私たちはこのビルのアンカーテナント(建物の中核となるテナント)なので、開発業者のレンドリースは『オーレコンは最上階のオフィスを希望している』と考えていました。私たちは、『いや、(ストリートとの)交流を望んでいるよ』と」(オーレコンのシニア・プロジェクト・エンジニア、ニコラス・ウェイスク氏)

「ストリートから歩いて、そのままこの環境へと入ってくる、そのような体験を望んでいたのです」(サール氏)

建物外観。10階建て、建物の総面積は1万5,000㎡。使用された木材は、従来の建築材料よりもCO2排出量が少なく、持続可能な形で管理された森林から調達したものだ。

  • 1F(日本の2Fに該当)レセプション。オフィス内と変わらないオープンでリラックスできる空間。レセプションデスクではなくコンシェルジュを置いたのも、親しみやすさの演出だ。

  • 2Fオフィスフロアも木材の雰囲気が強調されている。普通の高さのデスク、低いデスク、昇降式のデスクなど、ワーカーのニーズに応えるデスクが用意されている。

  • 木材には、CLT(Cross Laminated Timber)を使用。部材はデベロッパーであるレンドリース自身が立ち上げた材料メーカーから供給されており、木材建築に対する本気度が伝わってくる。

  • 静かに作業に集中するためのブース。ミーティングは禁止。ただし予約はできず、使いたい場合は早いもの勝ちになるそう。

  • フロア中央に位置するコミュニケーションハブ。一息入れに来たワーカーがコーヒーを飲み、サンドイッチを食べる姿が。インフォーマルな打ち合わせにも使われる。

  • 「エントランスの階段がとても好きで、毎日使っています」。明るい階段はウェイスク氏のお気に入りだ。

  • 通称「禅ルーム」。PCなどの電子機器は持ち込み禁止。テクノロジーを離れてリフレッシュするための空間だ。ストレスを和らげるとされる塗り絵なども置かれている。

  • オーストラリア先住民は会議の首長を決めず、屈託のない意見を交換することを良しとする。これをヒントに机を多角形にし、会議中のヒエラルキーを廃した。

  • 至るところに植物が多く設けられていることが、「ホーム」を思わせる落ち着きをオフィスにもたらしている。

  • オーレコンの新オフィスにおける7つのキーワード。マインドフルネスに関する多くの用語が使われている点が、現代的なオフィスを反映している。ウェルネスに関しては、ビルがWELL認証のCore and Shellで最高レベルのプラチナ認定を受けている。これは木造建築では世界で初めてのケースであり、クイーンズランド州においてもこの認定を受けた初めてのビルとして知られている。

  • オフィスプランの一例。1F(日本の2Fに該当)はレセプションやミーティングルーム、2Fはワーカーのための標準的な執務スペースだ。

働き方に柔軟性を持たせて
健康的な職場環境づくりを実現

事実、彼らはそのように働き始めた。転居以降、階段を使うワーカーが増えた。出社したスタッフはビル中央にある階段に向かい、窓からの朝日を浴びながら上階へ。ビルの真ん中に大きな階段を設けるのは大きなリスクを伴うプランだ。もし使われなかったらどれだけの投資が無駄になるのか。「でもフタを開けたら大成功でした。今ではエレベーターに乗る人よりも階段を使う人のほうが圧倒的に多いです」(ウェイスク氏)

「ホーム」を感じさせるしかけは、ほかにもある。室内を照らすランプシェードはオーストラリア先住民のアーティストのもの。上座・下座のヒエラルキーを感じさせない多角形のテーブルも先住民の考え方にヒントを得たものだという。ABWもそうだ。マクマホン氏は「集中する必要がある場合はクワイエットスペースを探し、人と話し合う必要があればコラボレートできる場所を探す。ここのスペースは柔軟に対応できるところが素晴らしいと思います」と話す。オフィス空間の選択だけでなく、在宅やフレックスなど働き方に柔軟性があり、健康的な職場環境づくりを重要視しているのだ。エンジニアリング企業では驚異的だが、女性比率が40%近いという点もうなずける。

ある時、オフィスの内覧会が催され、300人ほどの見学者が集まったが、みな「エンジニアリング会社らしくない」と称賛した。もっとも、ここで働くワーカー以上にそれを強く実感している者はいないだろう。「カジュアルなスペースがおしゃべりにさせるのでしょうか」とサール氏。ウェイスク氏も続ける。「私は12年この会社で働いていますが、このビルに移った日、初対面の人の隣に座って『こんにちは、ニックです』とスムーズに自己紹介ができました。初日から誰もが、ここは人と会うのに適した環境だと感じたはずです」

オーレコン
シニア・プロジェクト・エンジニア
ニコラス・ウェイスク

オーレコン
シニア・プロジェクト・エンジニア
フィリップ・サール

ウッズバゴット
アソシエイト・プリンシパル
サラ・マクマホン

  • 子ども用のアクティビティ・ルーム。オーストラリアには12歳以下の子どもを留守番させてはいけないという法律がある。子どもの学校が早く終わる日などはここで遊ばせる。取材時にはオフィス内にも子どもの姿が見られた。

  • 1Fに常駐するコンシェルジュ。待ち構えるような受付ではなく、さりげなく来訪者をサポートする。ランプシェードはオーストラリア先住民のアーティストの作品。

  • ワーカーの健康にも配慮しようと、サービスカウンターには20種類以上のナッツやドライベリーなどが並べられていた。これらのヘルシーなスナックは血糖値を上げない間食としてオーストラリアでも注目されている。

  • ビルの共用部分、GF(地上階)のエレベーターホールの前には色鮮やかなグリーンが。ビルの共用設備として、大規模なバイクストレージも備える。

  • オフィスエントランス。ストリートに面したカフェは、外のライブ感あふれる雰囲気をオフィスに持ち込むためにつくられた。周辺の住宅、オフィスもグラウンドレベルのにぎわいをつくるよう工夫されている。

text: Yusuke Higashi
photo: Hirotaka Hashimoto

WORKSIGHT 16(2020.7)より

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