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ユーザーに憑依するつもりで事業の細部を妄想する

人の意見を“聞いて捨てる”ことで独自性を打ち出す

[野崎亙]株式会社スマイルズ 取締役、クリエイティブ本部 本部長

大学では工学を専攻していて、卒業後はコンサルティング会社に在籍していたこともあります。経歴だけ見るとロジカルシンキングな人間に見えるかもしれないですが、コンサルにいたときから数字や分析的な裏付けにはあまり頼らなかったですね。説得材料としてはもちろん使いましたが、それより経験から具体的な要素を導き出すことの方が多かった。

振り返ると、子どもの頃からそういう傾向はありました。人と違うことをしてやろうという気持ちがすごく強くて、差別化を図るには理屈や一般論では太刀打ちできない、まして誰かのまねでもだめで、自分の内奥から出てきた独自性だけが武器になると直感していたのかもしれません。

勉強の意欲を高めるための工夫は事業のデザインに通じる

強烈な差別化志向が育まれたのは、兄弟の影響も大きかったと思います。僕は四人兄弟の三番目で、存在感としては中途半端なんですよ。そこで、承認欲求を満たそうと、家族の中で誰よりも食べるキャラクターを設定し、食べ物は何でも一人で51パーセント食べるようにしていました。ケンカになるけど存在感は発揮できると(笑)。

勉強法もいくつか編み出しました。その1つがダイニングテーブルの上に立って勉強するというもの。ダイニングテーブルは普通ダイニングルームの真ん中にあって、どの壁にも接していないから寄りかかれない、従って緊張感から寝落ちしないというアホな発想です(笑)。足元でご飯を食べている母親に「そろそろ降りなさい」とか言われたりもして。

でも、そういう工夫が意外と今の仕事に生きているんですよ。好きではない勉強にいかに前向きに取り組むかを試行錯誤することは、事業のデザインを考えることに通じます。どうしたらこの場所にお客さんが来てくれるかを考えるのは、どうすれば人がモチベートされるかを考えるということ。それは自分で自分のモチベーションをどうやって高めるか、勉強する状況をどうやって作ればいいかを考えていたのと本質的に変わりません。いってみればリアルマーケティングですね。それが今うまく応用できているように思うんです。

自分のセンスを知っているから他人のセンスを感知できる

意思は自分自身で作られるものではなくて、環境が作るものです。ということは、僕がやるべきことはその環境を作ることであり、意思を作ることではないわけです。勉強しようと思って勉強することってまずないでしょう。試験があるから勉強する。仕事だったら、締め切りがあるから頑張るということもありますよね。

高いモチベーションを自発的に維持することは大変で、その意味ではモチベーションを持続せざるを得ないような環境を作る方が簡単です。それをコントロールするための試行錯誤を小さい頃からやっていたのかなと思うんですよね。

クリエイションではセンスが問われるけれども、センスは意識とか感覚といった内在化されたもの。それを鋭敏にとらえるには、まず自分を知ることです。

僕らが事業を立ち上げるときにいつも問うのは、自分がお客さんだったら行くかどうかという視点なんですね。男性だろうが女性だろうが子どもだろうが、そのお客さんに憑依するつもりでお店やサービスの細かいところまで妄想します。ペルソナのようなマーケティングの手法は使いません。自分のセンスを知り尽くしているからこそ、他人のセンスをそう大きく外すことなく感知できるわけです。

実行が伴わない思考は、本当の意味での思考ではない

なんてことを言っていると、自分の感覚に絶対的な自信を持っているように聞こえるかもしれませんが、全くそんなことはなくて、いつも不安に駆られてもがいてばかりですよ。正解がない問いに日々向き合っているので、徹底的に思考し続けて、実行して形にして、さらにまた思考して、ということをひたすら繰り返します。

いかに感覚を鋭敏にして思考したとしてもそれだけでは不十分で、重要なのは実行すること。これに尽きます。失敗を恐れるあまり、あれこれ理由を並べて実行に移さないというパターンが一番まずい。ささやかでも実際に何かやればそれが思考を生み出すし、その思考がさらに新たな実行の呼び水になります。実行が伴わない思考は、本当の意味での思考ではないんです。

メンバーを評価する際も、実行したかどうか、それも適当にではなく、ひたむきに課題と向き合って頑張ったかどうかを見ますね。1回1回が成功しているか失敗しているかは諸条件の問題もあるので、あまり気にしません。仮に失敗したとしても、何か実行した人は、何もしていない人より経験値を重ねているし、その分次のフェーズの思考ができるわけだから、その人個人も成長するし、会社の成功のドライブにもなりやすい。そういう意味では、僕らの会社は成果主義というよりは実行主義で、まず形にしたかどうかを大事にしています。

多くの人の意見を聞いて、それをいったん捨てる

講演資料一つ作るにも、草稿を書いたら社内のいろんな人に意見を聞いて修正し、それをまた人にぶつけて直して……ということを繰り返します。これで本当に伝わるか、順番はこれでいいか、いろんな観点でギリギリまで試行錯誤を重ねるんです。

自分の考えを人に壁打ちすることにかけては、社内で一番数多くしていると思います。全事業を統括するポジションにいるということで、一人で突っ走って意思決定していると思われがちですけど、実は一番いろんな人の話を聞いてるんです。だって、分からないから。

でも、人の話はあくまで参考にとどめて鵜呑みにはしません。その事業に本当に必要なものは、自分で咀嚼した後におのずと残っていくので、そうやって沈殿したものだけをきれいにしてアウトプットしていけばいいんです。その繰り返しで構想がブラッシュアップされていきます。

よくありがちな落とし穴が、人に意見を聞いてそれを全部残そうとすること。特に上司やキーパーソンに言われたことは無理に採り入れようとすることもあるでしょう。でも、それは結果として整合性が取れない形を生んだり、何の個性もない平凡なものになったりして、最終的に共感が得られないアウトプットになってしまう。だから僕は“聞くけれども捨てる”スタイルを大事にしているわけです。

ビジネスで合理性を求めることこそが非合理

そもそも人間の判断はそれほど合理的ではないんですよ。例えば恋人を探すとき、年収やルックス、身長といった条件に全部マルがついたとしても、その人を好きになるとは限りません。外食でも、ガード下の雑然とした店が繁盛していることもある。これは飲食店選びできれいさが絶対的なファクターではないということかもしれないし、ひょっとしたら味さえも二の次かもしれない。それくらい人間の判断や行動は合理的じゃないんです。

であるにも関わらず、ビジネスでは自分たちの選択を合理的な枠組みにはめようとする。それがそもそも非合理であると考えられます。ならば、素直な視点に立って枠組みを組み上げていった方が必然的であるといえるでしょう。前編でも触れたように、体験から得られた具象を元に事業のフレームワークを作るということです。

個人の感覚に根差したところからビジネスを作り上げる僕らのやり方は、一見突飛かもしれませんが、そう考えるとむしろ手法としてはロジカルではないかと思います。

株式会社スマイルズは、代表取締役社長・遠山正道氏が2000年に設立。売上高17億6,400万円、従業員数は社員93名、アルバイト約180名(いずれも2017年3月)。
http://www.smiles.co.jp/

野崎氏が講演を引き受けるのは、自分の考えをまとめることも目的という。 「講演するとなったら、否応なく頭の中を整理して、人に分かりやすいように体系化しないといけない。そういう作業は放っておいたらできないから、自分で自分を追い込むんです。これも環境作りの一環ですね」

都心のど真ん中に山を作りたい。
その山頂で飲むコーヒーは特別なはずだから

新しい価値というのは、決して革新性とか斬新さだけにあるのではないと思います。例えば小学生くらいのときって、裏山を秘密基地に見立てたり、団地でかくれんぼをしてドキドキしたりしましたよね。狭い世界なのに全てがリアリティをもって感じられたわけです。

それが大人になると、行動範囲が広がっているはずなのに感覚的にはすごく狭い、しかもモノクロの世界を生きることが多くなってしまう。でも通勤時にいつもと1本違う通りを歩いてみるだけで、全く違う世界が開けるかもしれません。ちょっと位相がずれるだけで、突然世界がフルカラーになっていくようなことってあるものです。

スマイルズが取り組んでいるのはおおむねそういうことなんですね。例えば僕はこの数年、都心のど真ん中に山を作りたいと社内で言っていまして。高さにしたら3階建てのビルと同じくらいの、小高い丘のような感じでしょうね。周りはビルばかり。でも、カフェで飲むコーヒーと、その山のてっぺんで飲むコーヒーは、同じ豆、同じ淹れ方でもきっと味が違うはずなんですよ。自分の気持ちが違うから違う味に思える。あるいは違う時間に思える。

普段と同じことをしていても、状況を変えることで非日常になり得るということです。新しい価値が新しいことにないというのはそういうこと。今までの中に答えは全て潜んでいて、だからこそ日々の生活をすごく大事にすることが結果的に新しいものを生むための大きな一歩になっていくと思う。今やりたい仕事はそういうものなんです。

感度のトリガーを上げられたら、もっと違う何かを提供できる

旅行に行くと、やたら感受性が豊かになることってありますよね。いろんなものに好奇心を抱いて、いちいち感動する。それは感度のトリガーがぴんぴんと立っているからなんですね。それを日常の中でもできるようになれば、もっと可能性を広げられるんじゃないかと思います。

例えば、京都の料亭でお吸い物を飲むときは、じっくり味わおうとしますよね。口に含んだら、しばし押し黙るでしょう。これは舌が旨みを探す旅に出かけているということ。でも東京で同じものを飲んだら「あっさりしてるね」で終わると思うんですよ。

これは京都という街が、あるいは料亭が感度のトリガーを上げているわけです。同じことを例えば我々の手掛ける「Soup Stock Tokyo」で実現できれば、もっともっと違う何かを提供できるはずなんですね。

よく「高感度層」とか「感度の高い人」といった表現を聞くけれども、本当はそういう人はいなくて、誰でも感度が上がるときがあるということだと思うんです。ずっと高いままの人もいれば、たまにしか上がらない人もいるでしょうけど、そういう人たちも僕らの提供する価値につい感度を上げられてしまう――例えば、一口食べて調理法や食材に思いを巡らせたり、器の産地まで気になってしまったり。そんなことが起きると面白いですね。

日常の行為が非日常になる仕掛け

先日、ある美術館* で面白い体験をしました。海辺に大きなインスタレーション作品があって、脇にベンチと灰皿があるんです。喫煙者にとっては、その状況がコンテンツなんですね。ベンチに座って、たばこをくゆらせながら作品と向き合う。もしベンチも灰皿もなかったら、後ろ手で所在なく立ち尽くすしかない。作品の味わいはガラリと変わるはずです。

その美術館ではコーヒーが販売されていたんですけど、もし館内の好きな場所で飲んでいいと言われたら、もはやそこは美術館でなく美術作品に入り込める喫茶店といえるかもしれない。仮にそうなれば、作品と鑑賞者という対峙関係でしかなかったものが、作品自体に入り込んで関与していくことになる。コーヒー1杯がそのきっかけになるわけです。

これはさっきの山の話と同じ。ある状況を用意することで、日常の行為が非日常になる。そういったものを仕掛けていきたいと思っています。

既視感のもとに生まれるものに可能性がある

東京オリンピックへ向けて商業施設の建設ラッシュが続いていて、装置を作ることについてはやや過剰気味だと感じています。いま作るべきは新しい感性とか感覚ではないでしょうか。ここでいう新しさというのは、さっき言ったようにこれまであった何かがこれまでにはなかった何かになっていくようなこと。いわば既視感のもとに生まれるものの方がよほど可能性があると思いますね。

そう考えると、これから僕らが手掛けることは業態的に革新的な何かというよりは、ひょっとすると普通のコーヒー屋さんかもしれないし、普通の図書館かもしれない。けど、そこで今までになかった体験や感覚を提供していきたい。新たな経験、価値を生むきっかけはいっぱい潜んでいるけれども、まだ我々が気付いていないだけという気がするんです。

日常的な光景がちょっとしたスイッチで非日常的な光景に転換することもあるし、その体験が幾重にも価値を生み出して、そこにいる人の人生や生活をフルカラーに変えてしまうこともあるでしょう。僕らの提供するものがそのきっかけになればうれしいですね。そのためにはまず自分たち自身が感度を上げて日常を生きること。そして、それを実際の仕事に折り返していくことを、これからも大切にしていきたいと思っています。

WEB限定コンテンツ
(2018.1.9 渋谷区のRETHINK CAFE SHIBUYAにて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Kazuhiro Shiraishi


Soup Stock Tokyoのウェブサイト。
http://www.soup-stock-tokyo.com/

* 岡山にある奈義町現代美術館。

野崎亙(のざきわたる)

株式会社スマイルズ 取締役、クリエイティブ本部 本部長。1976年生まれ。京都大学工学部卒。東京大学大学院卒。2003年、株式会社イデーに入社し、新店舗の立ち上げや新規事業の企画を担当。2006年、株式会社アクシスに入社。大手メーカー企業などのデザインコンサルティングに取り組む。2011年、スマイルズに入社。giraffe事業部長、Soup Stock Tokyoサポート企画室室長を経て、現職。全ての事業のブランディングやクリエイティブを統括するほか、外部案件のコンサルティング、ブランディングも手掛ける。

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