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アートな環境が育てた人材が
次世代のハリウッドを牽引する

映画、テレビなどのメディア分野に最適化した大学

[Emerson College]Los Angels, U.S.A.

  • ロサンゼルスへのコミットメントを強めたい
  • 寮を併設したサテライトキャンパスをロサンゼルスに建てる
  • ロサンゼルスのコミュニティの一員として注目されるように

ボストンにあるエマーソン・カレッジは、創立130年以上の歴史を誇る大学だ。映画やテレビ、舞台、脚本、マーケティング、コミュニケーション、ジャーナリズムといったメディアを学ぶ施設があり、アートやコミュニケーション業界などへ多数の卒業生を輩出している。この大学にはもう一つ重要な拠点があり、それがエマーソン・カレッジ・ロサンゼルス(以下エマーソンLA)だ。映画の聖地であるハリウッドを抱えるロサンゼルスに身を置き、寮を併設したサテライトキャンパスで存分に学ぶことができる。

ほとんどのカリキュラムはボストンで行われるが、希望する学生にはエマーソンLAで学期を過ごすことが許される。サテライトキャンパスに来る学生は、卒業直前の者か、LAでキャリアをスタートさせるために滞在する者が多い。学生の一人、4年生のキーラ・ジョンソン氏(以下キーラ氏)はこのように言う。「エマーソンLAに来る学生のほとんどは映画かテレビを専攻しています。私も映画専攻です」。エマーソンLAではインターンシップがベースとなったプログラムが組まれており、学生全員がインターンシップに参加する。「朝の9時から夕方5時までインターンに出かけ、帰ってきて夜の7時から授業を受けるという生活です」(キーラ氏)。

「ロサンゼルス」という街へのコミットメントを象徴する建物

エマーソンLAで最も重視しているのは、学生に「経験」を積ませること。つまり、インターンシップで実際に仕事の現場を経験し、卒業後、社会に出ての仕事へスムーズに移れるような仕組みを作っているのだ。このキャンパスを拠点に、ロサンゼルスというプロフェッショナルが身近にいる刺激的な街で暮らしながら、仕事の一端に触れ、学問を学び、24時間いつでも学生同士のコラボレーションを体験できる。

「ロサンゼルスでのプログラムが始まったのは1980年代のことですが、現在のキャンパスの構想が生まれたのは5〜6年前のことです。その当時、ロサンゼルスでは24年間にわたりプログラムを行い、ロサンゼルス地域に住むエマーソン卒業生は4000人に及んでいました。そこで、ロサンゼルスにより大きなコミットメントをする必要があると判断し、この土地を購入したのです」。エマーソンLAの創設者であり90年代のTVドラマ『フレンズ』のプロデューサーでもあったケビン・ブライト氏(以下ブライト氏)は言う。

ところが、土地を購入して、単に建物を建てればいいというわけでもない。「ロサンゼルスにおける、エマーソン大学の象徴になるものでないといけません。LAという街へのコミットメント、エマーソン卒業生へのコミットメント、そしてハリウッドコミュニティへのコミットメントを象徴するような建物である必要がありました」(ブライト氏)。そこで白羽の矢が立ったのが、プリツカー賞の受賞経験がある著名な建築家、トム・メイン率いる建築設計事務所、モーフォシスであった。

エマーソンLA受付。

創設:1880年
学生数:約3,700人
http://www.emerson.edu

講義室。日中のインターンを終えた学生たちがここで学ぶ。

  • 校舎の正面から見た景色。ロサンゼルスの象徴であるハリウッドサインが見える。

  • 演劇のレッスンを行う教室。

  • 試写室へ通じる廊下。卒業生が出演した作品のポスターが壁に貼られている。

  • オーディオ編集に使われるラボ。

  • 吹き抜けのスペース。大きな階段では演劇や撮影も行われる。

  • テラススペース。バーベキューの設備もあり、学生同士の親睦を深められる。

  • 学生が集まるカフェテリア。

  • 多くの学生がリフレッシュのために活用するトレーニングルーム。

あらゆる場所が撮影に適した
モーフォシス設計のキャンパス

学生の居住空間を整えることは、「実社会で活かせる経験を学ぶ」というエマーソンLAの重要なコンセプトの1つだ。加えてエマーソンLAは映画やテレビに特化していることもあり、居住スペース以外のキャンパス構内では、学生がどこでも自由に撮影できるようにしたいと考えていた。そのような希望を叶えてくれたのがモーフォシスの挙げたデザインだったのだ。

「結果的に、プロの制作会社がエマーソンLAの建物で撮影をしてくれるようになりました。アメリカでヒットしたテレビドラマ『Scandal』もここで撮影されましたし、トム・ハンクスがプロデュースした映画の撮影もここで行われたんです」(ブライト氏)。まさに、建物のどこをとっても撮影に適したデザイン。建物それ自体がアートになった珍しいキャンパスとなったのである。

各種イベントを開催し、専門家と直接話ができる機会を提供

見た目だけではない。若い学生たちの生活を支える環境作りにも工夫が見られる。「テクノロジーだけではなく、コミュニティとコラボレーションを提供することが目的です」とブライト氏。「現代の学生はインターネットの普及によって、実際の距離が離れていてもある程度のコミュニケーションは取れます。しかし私は、昔ながらのフェイス・トゥ・フェイスのコラボレーションに勝るものはないと思っているのです」。キャンパス内には、バーベキューが行えるテラスや、食べ物を持ち寄って映画の上映会が行えるスペースなど、学生の集まれるスペースが多い。これも学生間のコラボレーションを活発化させるための工夫の一環なのだろう。

エマーソンLAでは、各種のイベントも開催されている。大学での授業とは別にエンタメ業界やジャーナリズム、マーケティングの専門家を講師として招き、学生がそうした専門家と直接話をする機会を数多く設けているのだ。これら専門家の多くは、同校の卒業生だ。さらに、すべての学生には半期に8時間、コミュニティ・サービスが義務づけられている。何らかのボランティア活動、チャリティ活動、NPOでのお手伝いなどを通じて、ロサンゼルスのコミュニティの一員としての自分を育てていく。「一人8時間だとしても学生は全部で200人、それが2学期分ですから、毎年3200時間をエマーソンLAがコミュニティ・サービスに貢献していることになります。これもロサンゼルスという街へのコミットメントを示す上で大切なことです」(ブライト氏)。

業界へ次々と優秀な卒業生を輩出

新しいキャンパスが誕生して数年。学生にとってはもちろん、コミュニティにとってもポジティブな変化が起きてきているようだ。エンタメ業界のプロフェッショナル団体とのコラボレーションがその一例であろう。即興コメディで有名なUplight Citizens Brigadeと組み、学生に即興コメディを教える授業が生まれた。もちろん単位も取得できる。コメディ作品を集めた動画サイトを運営するFunny or Dieとも一緒に授業を行っている。知名度の高いプロフェッショナルな団体とのコラボレーションが進むうちに学生の数も増えるようになったそうだ。海外の教育機関やその他のプロフェッショナル団体からの依頼も増えているほか、海外の学生を受け入れる「インターナショナルプログラム」も始動しており、エマーソンLAの注目度はますます上がっている。

ビジネスの世界はどこもそうだが、エンタメ業界においては特に動きが激しい。そのためエマーソンLAでは、業界の変化にいち早く対応するように環境を整えている。アメリカ国内で初めて、バーチャルリアリティが学べて単位が取得できる授業を作ったのは、ここエマーソンLAだ。「私たちはこれからも、ロサンゼルスのコミュニティに卒業生をどんどん輩出していきたいと思っています。現在はクリエイティブな部分で活躍する人材がほとんどですが、いずれは管理部門でも活躍してくれる人材も育てていきたい。エマーソンの卒業生には映画監督や脚本家だけでなく、実はエグゼクティブも多いんですよ。いつでも私たちはロサンゼルスにいて、卒業生たちをしっかりとサポートしていきたいですね」(ブライト氏)。

インテリア設計: Morphosis
建築設計: Morphosis

text: Yuki Miyamoto
photo: Hirotaka Hashimoto

学生の暮らす寮の一室。

コンピュータールーム。最新のテクノロジーがここで学べる。

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