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共働きを前提とした組織のあり方を開発したい

徹底した効率化で時間のロスをなくす

[重松大輔]株式会社スペースマーケット 代表取締役/CEO

「スペースマーケット」は世界中のユニークなスペースを簡単に貸し借りできるマッチングサイトです。

事業の立ち上げ時にやってよかったことの1つに、スタートアップ企業向けのさまざまなピッチコンテストに参加したことが挙げられます。しかも軒並みいい成績を収められた* ことで、複数のメリットが得られました。

多くのメディアで取り上げてもらいましたし、それを見て1回使ってみようというお客さんもたくさんいました。ユーザーの登録件数はぐっと増えましたね。

成功事例を研究することで失敗を軽減できる

それから露出が増えたことで、いい人材が採れるようになったという副次的効果もありました。

本人がスペースマーケットに転職しようと思っても、知らない会社だということで奥さんの反対に遭うこともあったんです。いわゆる「嫁ブロック」ですね(笑)。でも日経や朝日新聞で取り上げてもらったことで家族に安心してもらえるようになりました。採用の不安を払しょくさせることで、優秀な人材を獲得しやすくなったわけです。

ちなみにピッチコンテストで勝ち続けることができたのは、TEDなどで優れたプレゼンを研究したからだと思います。いいプレゼンには例えば分かりやすく説得力のあるストーリー、ワンスライドワンメッセージ、なるべく大きい写真を使うといった型があります。それを抽出して一度自分に取り入れたうえで自分流にアレンジしていく。いってみれば守破離の実践ですね。

失敗を研究する人は多いけれども、それより成功事例をじっくり研究した方がいいですよ。自分の少し先を行っている人たちですからね。調べてみると大体同じようなところでつまづいていたり、工夫していたりするものです。それを知ることで失敗を軽減できる。それだけ早く成功の道にたどりつけるわけです。

自分たちで決めれば自分事で取り組むようになる

マネジメントをする上では前職の経験も役立ちました。チームリーダーを務めたこともありますし、社長に近いところにいたこともありますし、採用にもタッチしました。だから人の見極め、事業の立ち上げ、人の処し方が体で分かるんです。

例えば組織が20、30人の規模になると、創業当初からいた人のモチベーションが下がることがあります。通常、立ち上げ時は猫の手も借りたい状態なので、それほどスキルセットが高い人は採用できません。

でも会社のバリューが上がれば優秀な人が入ってくる。すると最初からいた人と摩擦が起こることがあります。そういうケースを過去に見ていたので、スペースマーケットの創業では共同創業者でCTOの鈴木(真一郎)のような優秀な人、組織の規模が大きくなっても専任者を張れるような人を最初から頑張って採用したわけです。

同時に、社員間で摩擦が起きないよう工夫もしました。当社では大切にしているバリューとして8項目** を定めていますが、これはみんなで考えて決めたものです。自分たちで決めれば自分事で取り組むようになります。これも前職で見てきたことです。


株式会社スペースマーケットは世界中のさまざまなスペースを簡単に貸し借りできるプラットフォーム「スペースマーケット」を展開。取り扱い物件数は約6,000に上る。他にイベントプロデュース事業やプロモーション支援事業も手掛けている。2014年1月設立。
https://spacemarket.com/

* B dash campピッチアリーナ2014優勝、Rising Expo 2014優勝、Infinity Ventures Summit Launchpad 2014 spring準優勝など。

** 「世界は変えられると信じて挑戦し続けろ」「ラストワンマイルを詰め切れ」「固定観念を理解し捨て、創造せよ」「オーナーシップを持ち、組織を成長させよ」「自分より優秀な人財を採用し、共に成長せよ」「真のカスタマーサクセスを実現せよ」「PDCAを高速回転し、適正な結果を出せ」「素直・謙虚・チャーミングであれ」の8項目。

今後も共働きは増えていくはず。
企業は制度設計を見直す時期に来ている

システムやサービスを開発するのと同じように、組織のあり方や働き方も新しいスタイルを開発していきたいと思っています。特に、家庭を持つ社員が気持ちよく働ける環境作りは課題です。

僕自身、子どもが3人います。妻は会社の役員をしていますし、仕事と子育てを両立する大変さは身に染みて分かっています。世論も女性のワークスタイルも変化していますし、収入を安定させるうえでもリスクを分散できますから、今後も共働きは増えていくでしょう。企業は共働きを前提とした制度設計をしていくべきだと思っています。

うちの会社では共働きを推奨しているんです。だから、例えば保育園への送り迎えがある場合、出社や退社の時間が多少ずれても目くじらは立てません。子持ちの人には時短も柔軟に対応します。会社としてこういう方針を打ち出すことで、優秀な女性をどんどん引き付けていきたいと思っています。

個別の事情で労働時間を裁量することは大企業では難しいので、多くの女性が辞めていきます。知り合いの女性にもいるんですよ。ものすごく優秀なのに子どもができて勤めていた大手企業を辞めなければならなかった。それで今は教育機関で補助的な仕事をしているんです。大企業の第一線で活躍できる能力があるのに、そういう仕事に甘んじるしかないのかとがっかりしました。

働く場所の環境や思想で輝き方は違ってくるもので、こういうケースはもったいないですよね。うちには子育て中の女性社員が多いですけど、子育てにかかる負荷の部分をケアできれば、そういう人ほどすごくコミットして仕事に取り組んでくれます。それに、お母さんたちが頑張っていると周りの若い人たちも触発されます。本人にも他のメンバーにもプラスになるわけです。

仕事は全力で取り組んで、生活もとことん楽しむ

働きやすい環境作りには効率化も大きな要素です。だからリモートワークを進めていますし、無駄な打ち合わせもできるだけしないようにしています。

遠方での打ち合わせも、簡単な問い合わせや連絡程度であればiPhoneのFaceTimeでこと足ります。FaceTimeで前さばきをして、いよいよ話が本題に入っていくのであればそのとき打ち合わせに行けばいい。もちろん会った方が多くの情報をやりとりできるので、会うに越したことはありませんけど、移動にかかる時間とコストは積み重なれば膨大になります。

効率化を図るために使えるツールはどんどん使うべきだし、そういう姿勢が働き方の柔軟性を保ちつつ、組織としてのパフォーマンスを引き出すことにつながっていくと思います。

働き方や組織のあり方など、今まで当たり前だったことがこれからどんどん変わっていくでしょう。その中で、働きやすく、しかも子どもを育てやすい環境をどう作るか。要はワークライフバランスなんですけど、仕事は全力で取り組んで生活もとことん楽しめるような職場でありたい。そうやっていい人材が集まって、その人たちがさらに成長して新規事業をどんどん立ち上げていく、そんな企業にしたいと思っています。

ビジネスで民泊を活用すれば経済活動も上向く

世の中を見渡せば、スペースはまだいっぱいあります。飲食店もぐるなびに登録されているだけで東京に10万軒近くあります。魅力的なスペースを掘り起こして登録していただいて、物件数を積み上げていくことが当面の目標です。

また、企業の会議室も対象にしていけたらと思っています。空いているスペースっていっぱいありますよね。特に土日はセミナールームや会議室は空っぽでしょう? 勉強会や会合で使われるなら管理上も問題ないし、何より空き時間がお金になることは大きいと思います。

でも、ビル管理者との契約で転貸禁止が決められていたりするので、それがオープン化を阻んでいるんですね。だからそこを適切な利用なら構わないという具合に契約を組み直せばいい。その分家賃が多少上がってもいいとか、あるいは仲介する不動産会社にも少し利益が回るとか、Win-Winの仕組みを作ればより多くのスペースの活用につなげられると思っています。

民泊も手掛けていきます***。インバウンドだけでなく、ビジネスの出張にも利用が見込まれます。いま企業はどこも経費節減でホテル代を捻出できません。無理して日帰りするケースも多いわけですが、でもそれでは経済活動がままならない。民泊を利用して安く宿泊できれば、ビジネスでも得るものはあると思います。さまざまなスペースのシェアを促していきたいですね。

WEB限定コンテンツ
(2016.2.23 新宿区のスペースマーケット オフィスにて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Takafumi Matsumura

*** 2016年6月頃から民泊物件の掲載をスタートしている。

重松大輔(しげまつ・だいすけ)

株式会社スペースマーケット 代表取締役/CEO。1976年千葉県生まれ。早稲田大学法学部卒。2000年NTT東日本入社。主に法人営業企画、プロモーション(PR誌編集長)等を担当。2006年、当時10数名の株式会社フォトクリエイトに参画。新規事業、広報、採用などに従事したほか、社長付特命担当部長として、2013年7月東証マザーズ上場を経験。2014年1月、株式会社スペースマーケットを創業。2016年1月シェアリングエコノミー協会 代表理事に就任。

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