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光と優秀な人材を取り込む“松かさ”型ラボ

国の「医療ハブ」目指す都市の中心に完成した研究施設

[SAHMRI]Adelaide, Australia

  • 国際的な競争力のある医療ハブになる
  • 研究に打ち込める健康的な環境づくり
  • 優秀な人材が集まる象徴的な場に

南オーストラリア州の州都アデレード。国の「医療ハブ」を目指すこの街は、大学病院や各種研究施設が集結するエリアを開発中だ。

なかでもいち早く完成した「サムリ(正式名称はSouth Australian Health and Medical Research Institute)」は、エリアの中心に位置する州の医療研究所である。アボリジナルヘルス(病院に行く文化のない先住民アボリジニの健康管理)、癌、母子の健康、心臓の健康、感染症と免疫力、精神と脳、栄養学とメタボリズムの7つを研究テーマに持つ。

インフラ・キャプタルプラン・ディレクターのミッシェル・ゲオルギュー氏によれば、建物は彼らにとって「マーケティングツールであり、リクルートメントツール」の意味もある。つまり、欧米の主要都市から遠く離れた南半球の“地方都市”であるアデレードに、世界中の優秀な頭脳を集めるための施設だ。

南オーストラリア初の医学研究施設

というのも、2007年以前のアデレードでは、各病院が個別に研究を行うのみで、専門的な研究施設が存在しなかった。結果、研究者たちは職を求めて南オーストラリアを去り、7年間で5%減という事態に。これを懸念した政府は、研究者を連れ戻すべく、2億ドルの資金を投じて南オーストラリア初の医学研究用施設を建設することにしたのである。

「プロジェクトが始まる前、サムリの取締役が言ったのは『世界中に知られるものをアデレードにつくってください』。非常にやる気を刺激されるビジョンです。クライアント自身がクリエイティビティの既成概念を超えることはまれ。でも彼らは、創意工夫するスペースを与えてくれたんです」(ゲオルギュー氏)

PET検査薬の製造に用いる「サイクロトロン」を所有しているのは、南オーストラリア州ではサムリが唯一。とはいえ、まだ開業して1年足らず。設備自体を世界トップレベルに充実させていくのはこれからの課題だという。サムリではむしろ、研究者が何より望む「研究に没頭できる」環境を提供することに主眼が置かれた。


窓のないオフィスビルを大きな外壁が覆っており、空間の一体感がより増している。

創業:2008年
従業員数:約450人
https://www.sahmri.com


外壁を構成している三角形の開口部。日差しの角度を調整する庇が取り付けられている

  • 執務エリアと研究エリアを隔てるものはガラス壁1枚。研究者と執務者がそれぞれ孤立しないよう配慮しながら、安全性とデザイン性を両立させた。

  • 4階ラウンジスペースにあるカフェ。コーヒーを片手に談笑する姿がよく見られる。

  • 研究エリア。ドライラボとウェットラボの機能変更は簡単に行える。

  • 4階のラウンジスペース。上の階から研究員が降りてきて、休憩にまたインフォーマルコミュニケーションを行っている。

「一番の成果は、コラボレーションと創造力を発展させるビルに、設備を1つにまとめられたことだと思います。自分たちの活動をサポートする必要な設備が整っていれば、研究者は満足するのです」(ゲオルギュー氏)

建物の構造からしてユニークだ。外壁と内部空間が独立しており、あたかも1つのオフィスビルを“殻”がすっぽりと包むような形状。松かさのかさにヒントを得たとされる窓からの自然光は、必要な分だけ空間の隅々にまで行きわたり、館内はどこも明るく開放的だ。空調も100%新鮮な空気を取り込んでいる。

「フラワーカラム」と呼ぶ放射状に広がる柱を使うことで建物を貫通する円柱を減らしたのは、研究室にあてるスペースを最大限確保するため。また柱がなければ部屋割りも研究内容に応じて随時変更可能。空間のフレキシビリティが向上したのである。


動線のメインとなる螺旋階段とエレベーターのそばにはちょっとしたキッチンがあり、研究員同士の偶然の出会いを演出する。

  • 研究エリアと執務エリアの間には、ミーティングルームが設置されている。自然光が常に降り注ぐ気持ちの良い空間だ。

  • 慢性疾患について研究するチームのスペース。ワーカーの多くは健康志向のためデスクを昇降させ、スタンディングの状態で働いている。

  • 地下にあるジム。運動を推奨する組織文化で、月100豪ドルでトレーナーをつけられる。

  • 駐輪スペース。当初は自動車通勤する職員が多くなると考えられていたが、現在ではスペースが足りず、外部にも駐輪場を借りている。

中央に集約された動線が
コミュニケーションを促す

ゲオルギュー氏が言う通り、コラボレーションの促進も大きな成果だ。執務エリアと研究エリアを隔てるものはガラス壁1枚。危険度の高いウイルスを使用する実験にも耐えられる安全性を確保しながらも、フロアには常に活気が満ちる。「研究所」特有の、暗く閉じた空気とは無縁だ。

建物中央の螺旋階段は4階から8階までを繋ぐ。4階に設けられたパブリックスペースでは毎週金曜日にセミナーを主催、異なる研究グループ同士がプレゼンテーションを行い、情報共有を推進する。

ここで働く研究者の1人、マコト・カメイ氏は言う。「オープンスペースでの研究は初めての経験。静かな空間が欲しいこともありますが(笑)、コミュニケーションが取りやすいのは確か。他の研究者と交流ができますし、研究所の『偉い人』にも話しかけやすい」

活気があり、明かりに包まれた働きやすい環境

ウェルビーイング向上は顕著。この施設で働き始めてまだ1年、数字の裏付けこそないが、研究員からのフィードバックにそれは表れている。病気休暇は減少、産休をとった研究員も6カ月以内に全員復帰した。

地下にはジムがあり、運動が推奨されている。カメイ氏によれば「何分以内に何カロリーを消費しろ、といった感じのストイックなトレーナーがいる。私も週3回通っています」とのこと。

「SAHMRIは新しい組織なので、以前から所属している研究者はいません。建築中から採用をはじめ、人材を増やしていきました。その彼らが、『活気があって、明かりに包まれている』『今まで働いていた環境は暗くて牢屋のような場所だった』と口を揃えて言います。個人的には、皆がここで働けることに感謝の気持ちを持っているように思うのです。なんだか、他とは違うエネルギーが流れている建物ですね」(ゲオルギュー氏)

コンサルティング(ワークスタイル):自社
インテリア設計:Woods Bagot、RFD(for Lab design)
建築設計:Woods Bagot

WORKSIGHT 08(2015.10)より

text: Yusuke Higashi
photo: Masahiro Sanbe


インフラ・キャプタルプラン・ディレクター
ミッシェル・ゲオルギュー


主任研究員
マコト・カメイ

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