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事業戦略と施設戦略を統合する
コンストラクションマネジメント

性能発注で発注者・受注者双方にメリットを

[川原秀仁]株式会社山下ピー・エム・コンサルタンツ 代表取締役社長

企業がオフィス棟や工場などの施設を建設したとき、経営者、従業員の方々から「思っていたものと違う」「こんなはずではなかった」と不満の声が聞かれることは少なくありません。問題の背景にあるのは、事業戦略と施設戦略の乖離です。

施設建設の発注者である事業主はさまざまなニーズ、シーズ、ウォント、ウィッシュを持っています。それに自分たちが得意とする技術やサービス、さらにイノベーティブな考え方を融合して事業戦略を立てますが、これを実現するにはヒト、モノ、カネ、情報といった資源が必要で、さらにこれらを収容・管理するための施設が必要です。施設戦略は事業戦略の一環であり、従って施設建設の際にはまず事業戦略を明確にする必要があるのです。

建築と経営を知り尽くした施設建設のプロデューサー

しかしながら、建築業界はこれまで工学的な正確さ、意匠の美しさなどを追い求めるあまり、ビジネス目線で事業主の要求の本質をとらえきれなかったように思えてなりません。

施設戦略が事業戦略に包含されたものという理解も薄いですし、施工後の施設運営・事業運営にまで踏み込んで解決していこうという発想がそもそもありません。建築の工期にしても、激変する経済環境に合わせて1日でも早く建て、1日でも早く稼働させたいと考える事業主に対して、施工側は工数に余裕を持ちたいと考えるのが一般的です。

お客様のために事業や運営を考えるという設計者・施工者もいるでしょうが、仕様固めの一環としてヒアリングをする程度では稚拙なものに留まらざるを得ません。本来考えないといけないその企業のイノベーションやマーケティングといった大きな項目からブランディングに落とし込み、さらにヒト、モノ、カネ、情報の計画へと具体化することは、建築しか知らない技術者には無理といわざるを得ない。こうした状況が事業戦略と施設戦略の乖離を生んだのだと思います。


株式会社山下ピー・エム・コンサルタンツでは、新規事業や保有施設の問題を事業主目線で解決するコンストラクションマネジメント業務を展開している。1997年設立。社員数100名(2016年2月現在)。
http://www.ypmc.co.jp/

発注者と受注者の意識には違いがある。(山下PMC提供の図版を元に作成)

山下ピー・エム・コンサルタンツ(以下、山下PMC)の活動は、この状況に風穴を開けるものです。建築と経営の両方が分かるコンサルティング集団として、事業戦略と施設戦略を高いレベルで統合するCM(コンストラクションマネジメント)業務を展開しています。

発注者である企業と、受注者である設計者・施工者はそれぞれ利益が相反する部分があり、計画全体を客観的にジャッジすることは困難です。そこで我々のような建築も経営も分かる第三者の立場に立ったプロデューサー役、参謀役が存在感を発揮するわけです。

ヒト、モノ、カネ、情報を資源化する施設

施設は単なるハコではありません。その会社のマーケティング力を高め、イノベーションを引き起こし、ブランド価値を向上させるものです。それはヒト、モノ、カネだけでなく、情報(ナレッジ)までもを確かな経営資源に変える舞台でもあります。

例えば、あるメーカーで商品を開発したとします。まずはヒト、モノ、カネを使って生産施設を造ろうと資本投下します。そうすると建設のイニシャルコストがかかりますね。施設ができあがって運営を始めれば、販売収入も得られますが、一方で施設を管理するためのランニングコストもかかります。利益はまずこうしたコストの償却に充てた後、積み上がってやがて黒字化します。その部分が本当の資産になるわけです。

利益の拡大とともに資産は増し、社内にはさまざまなニーズやウィッシュが蓄積され、それを元に新たな製品やサービスが生まれます。今度はヒト、モノ、カネだけでなく、将来を左右する情報の制御も視野に入れ、仕組みまで備えた新たな事業を創出することになるでしょう。

そこでまた施設を新設する場合、マーケティング機能やイノベーション機能を備えた施設、あるいは組織のブランド価値を高める施設を造ることになります。こうして建設のイニシャルコストやランニングコストが発生しつつ販売収入も得るという前回と同じルーティンが繰り返されるわけですが、今回はさらに仕組みまで踏み込んでマーケットに提供しているので、より多くの事業収入が見込めるようになります。

これが事業経営の本態です。「収入を創り出す」「収入を上げる」「支出を抑える」という3点が事業の根幹であり、従って施設をどのような目的で建てるのか、その施設でどれだけの収入を新たに創り出すかという事業戦略と、施設にどのような機能が必要かという施設戦略をひっくるめた視点が不可欠なのです。

この大元の事業メカニズムを理解しないまま、イニシャルコストやランニングコストをどう縮減するかといった施設だけでの収支バランスに汲々としていては事業は拡大していきません。今までにない収益の柱を創造する、より高い利益をあげていく、イノベーションやマーケティングに資する、自社ブランドを向上させるといった観点で施設戦略を立てること。「品質(Q)」「コスト(C)」「納期(D)」「運営・サービス(S)」「リスク低減(R)」という5つの要素で施設戦略を構成し、事業戦略の一部として位置づけなければならないのです。

施工側の自由裁量を認めて知恵を引き出す性能発注

事業戦略に基づいた施設戦略を立案し、さらに建築物として形にしていく有力な手立てに性能発注というものがあります。

従来の施設建設では企画に基づいて基本設計を行い、詳細な実施設計へと詰めていき、そこから施工業者の選定、予算立て、発注という流れが主流です。施設に求められる品質、コスト、納期、運営・サービス、リスク低減という5要素をあらかじめ構築してから発注するやり方で、これは仕様発注と呼ばれます。しかし、このアプローチでは建設に伴うヒト、モノ、カネの調達・再配分、組織の移行、さらには人材教育などまで全て計画しなければならず、発注まで時間がかかります。現在の経営のスピード感には全くそぐわないのです。

もっとスピーディーに、事業を戦略化したら直ちにヒト、モノ、カネ、あるいは情報のマネジメントへとつなげていきたい。ならば、仕様ではなく性能を発注すればよいのです。「こういうものを造りたい」と機能や性能を示し、それが実現できるならば一定の品質、納期、コストの範囲内で設計・施工側に工法やデザイン、素材は任せる。これが性能発注です。

性能発注は事業者にとっても大きなメリットをもたらします。性能を規定することで、求める品質と運営・サービスに応じたコストと納期について、設計者・施工者から早期に約束(コミットメント)を得ることができるようになります。また、施工側の裁量度が高まるので知恵やノウハウを引き出すことにつながりますし、企画プラスアルファくらいの段階で発注するので建設スピードはもちろん、資金調達のタイミングの計り方も早くなります。発注者にとってよりやりやすい方法であり、それゆえ日本の建設工事は公共事業も含めて性能発注へと流れが変わりつつあります。

発注者と受注者の意識には大きな乖離がある。(山下PMC提供の図版を元に作成)


株式会社山下ピー・エム・コンサルタンツでは、新規事業や保有施設の問題を事業主目線で解決するコンストラクションマネジメント業務を展開している。1997年設立。社員数100名(2016年2月現在)。
http://www.ypmc.co.jp/

川原氏の著書『施設参謀--建設リスクを経営資源に変えるコンサルティング』(ダイヤモンド社)では、事業戦略に包含された施設戦略の必要性を事例とともに紹介している。

発注者と受注者のWin-Win関係を構築、
日本の産業を大きく動かしたい

性能発注の仕組みを現在の形式まで昇華させたのは山下PMCで、自動車産業など製造業の仕組みを応用したものです。経済合理性に則ったものであると同時に、高品質、低コスト、短納期を誇る日本の優れたモノづくりのエッセンスを建築の世界にカスタマイズするものでもあります。

さらに、発注者である事業者と受注者である設計者・施工者のWin-Win関係を構築して、受益者を増やす形で日本の産業を大きく動かしていく。それもまた私たちに課せられたミッションだと考えています。

例えば、設計・施工側にはワクワク感を持ってもらうよう努めています。ファサード(建物正面)のデザインをお任せするとか、プランニングの工夫の余地を広げるなどしてモチベーションをかきたて、持てる力をフルに出し切ってもらいたいのです。言われた通りに造ればいいというのでは、日本の建設産業の伝統で脈々と受け継がれてきた知恵や技術力を引き出すことができません。そこである程度の余地を与えて、いろんな考え方に取り組んでいいと伝えると、みなさんものすごく頑張ってくれます。

全くの自由を認めて「何でもあり」と言えば、それはそれで設計者・施工者は困ってしまいますし、発注者の意向に沿えない可能性もありますから、ある程度の枠を設けることが重要です。そのさじ加減が我々の本領でもあるわけです。

ワクワク感を引き出すのは発注者に対しても同じこと。自分たちの思いがこの施設に封じ込められるのだと思えば期待が高まるのは当然でしょう。ただ、それには経営者や現業のみなさんのニーズ、シーズ、ウォント、ウィッシュを我々がしっかりと把握し、施設戦略の全体最適を実現しなければなりません。トップダウンの押し付けでは現場の社員はやる気を失うし、ボトムアップに偏れば戦略的にまとまりを欠きます。両方の思いを高度にバランスさせる必要があるのです。

OJTを通じて社員に「三現主義」を植えつける

当社の社員には常々、建築の技術にこだわるなと語っています。建築の専門的な知識や経験は持ちつつ、事業者の戦略を理解して、何がそれに有益かを考えながらプロジェクトを推進していくことが望まれるからです。

そのため人材育成では、現場・現物・現実主義の「三現主義」を掲げています。高邁な思想や秀逸なアイデアがあっても、実際に実現することがなければ絵空事に過ぎません。この三現主義を実践するため、OJTで社員は徹底的に鍛えられます。

ただ、現場は多くの気づきや学びを促す場でもあると同時に、おのれの未熟さをさらす試練の場でもあります。場合によると心が折れてしまう人が出てくるかもしれない。そこで社員たちの支えとなるのは、我々が明日の日本を作る先端を走っているのだという気概と、経験豊富な大先輩のフォローです。

勉強会も開催しますし、教育資料やマニュアル、行動規範なども十分に整備していますが、人を育てるのはやはり人なんですね。当社では大手建設会社や大手設計事務所で経験を積んだ後にリタイアした大ベテランをスタッフとして招き入れ、「賢人」としてプロジェクトに参画してもらっています。

賢人、女性、30歳以下の若者はこれからの経営資源

賢人はいま社内に20人近くいますが、いずれも現役時代に大規模現場でトップを務めたとか、設計や監理のチームを指揮したといった強者ぞろい。70歳以上が5人くらい、最年長は78歳です。そうした賢人と若手でプロジェクトチームを編成し、経験知やノウハウを若手に注入するわけです。

賢人制度で若手の成長スピードは格段に早まりますし、厳しい現場環境でも精神的につぶれることなく、たくましく育っていきます。

実は私自身も若かりし頃、初代の賢人である大手建設会社出身の先輩技術者から、技術や知見を徹底的に吸収して、方法論にまで昇華させたことがかけがえのない財産になっているんです。生産計画の立て方から調達、コストの見方、労務管理、各工事の重要なポイント、職人や監督員との接し方まで、それこそ骨の髄までしゃぶり尽くす勢いで多くのことを吸収させてもらいました。その人がいなければ、こうして建設産業の課題を本質的に解決するには至らなかった。同じことを若手に体験してほしいんです。

当社では賢人、女性、30歳以下の若者をこれからの経営資源と考えています。こうした人材をうまく活用できてこそ、次世代の理想的企業ではないでしょうか。そのロールモデルを自認して、これからも果敢に取り組みを続けていきます。

WEB限定コンテンツ
(2015.12.4 中央区の山下ピー・エム・コンサルタンツ オフィスにて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Tomoyo Yamazaki

山下PMCのオフィスではコミュニケーションスペースの壁がホワイトボードになっていて、活発な議論が交わされている。

川原秀仁(かわはら・ひでひと)

株式会社山下ピー・エム・コンサルタンツ代表取締役社長。1960年佐賀県生まれ。大学卒業後、農用地開発/整備公団、JICA等を経て、山下設計に入社。1999年より山下ピー・エム・コンサルタンツの創業メンバーとして参画し、国内のCM(コンストラクションマネジメント)技術の礎を築く。メガプロジェクトを中心に代表的CMプロジェクトに従事し、近年は事業創造や事業戦略策定の支援、CRE/PRE戦略を群単位で解決する業務など、幅広い領域の総合マネジメント業務を展開している。‎

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