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社内外の人が参加するソーシャルネットワーク時代のオフィスの作り方

「きっかけ」のデザインで人々を巻き込んでいく

[河田将吾]河田将吾一級建築士事務所代表 チームラボオフィス代表

先ほど申しましたように、僕たちは、「情報社会のためのオフィス空間」をデザインしているのですが、お客さまから頂くご相談内容はさまざまあります。

たとえば、大阪ガス行動観察研究所のプロジェクトルーム(ワークショップルーム)をデザインしたときの課題は、自由に意見を言い合える空間を作ることでした。つい肩肘を張ってしまいがちな場所で、みんなの脳みそを柔らかくしてくれるような空間を目指しました。

大阪ガス行動観察研究所では、現場での観察を起点にして、お客様と課題を共有し、商品・サービス開発、サービス現場(店舗、接客など)のソリューション創出、提案を行うという事業をされています。そのお客さまとのワークショップをするプロジェクトルーム(ワークショップルーム)では、会社や立場の違う人達が集まり、共に問題を解決していきます。そのためには、お互い、自由に意見を出し合う環境が必要でした。

「テンションが上がる」思わず話したくなる仕掛け

僕たちが提案したものは、まず、空間に入った瞬間にみんなのテンションが上がること。そして、思わず話し出したくなってしまうような空間でした。試行錯誤してたどり着いたのは、テンションが上がる言葉に囲まれると人は話したくなる! というものでした。

しかも、そんな言葉が吹き出しに書かれていたならば、みんなもっと話したくなるはず! と、プロジェクトルームの利用者たちのテンションが上がるような言葉を、ホワイトボードでつくられた吹き出しに書けるようにして、自由に壁に貼れる仕組みを考案しました。「すげー!」とか「それやばい!」といったシンプルな言葉から、「のうみそにゅる~ん!」というテンションだけで生み出されたような言葉まで、どんなメッセージを書いてもかまわない。

そんな言葉群に囲まれると、人は、自然とそういう気分になる。そして、思わず口に出してしまったならば、お互いのテンションは、連鎖的に上がっていく。そして、言葉と同様に、テンションが上がる写真もまた、人のテンションを上げるはず! と、テンションの上がる机を作りました。天板をアクリルにして、みんなの好きな写真を自由に挟めるようにしました。好きなものを見ながら話すことで、テンションも上がるし、写真が会話のきっかけにもなります。

また、よく観光地にある顔出しパネルを、パーティションにしました。魔法使い、お姫様、勇者、王様のキャラクターが描かれた、顔の部分に穴が開いている顔出しパネル。このパーティションを何に使うかというと、穴から顔を出して自己紹介してもらう(笑) こういう、バカらしくて普段やらないようなことをひとつすると「これは言わないでおこう」みたいな心のハードルがぐっと下がるんです。

社員自らが「変えたくなる」オフィスデザイン

新潟の栗山米菓は、1947年創業の伝統ある会社で、完全な役所スタイルのオフィスでした。部長の席が部下たちを一望できる位置にあるようなイメージです。そういったちょっとクラシックなオフィスだったのですが、実際に観察してみると、社員はPCをずっと眺めているわけではありませんでした。話しながら仕事をしている人が多かったのです。ミーティングルームまでも行かず、簡単な話であれば席に座ったままで済ませている人も多かった。

しばらく観察を続けてみると、「1人でデスクワーク」、「少人数で話す」、「大人数で話す」、「ミーティングルームで話す」のように業務に幅がありました。そこで、これらの業務を1つのデスクで完結させらることができたら、すごく効率的なのではないかと思いました。

くねくねした形のフリーアドレスデスクにすることで、一人で集中したり、囲んで話したり、向き合って話したりなど、シチュエーションに応じて席を自由に選べるようにしたのです。

栗山米菓のオフィスデザインもそうなのですが、僕たちが手がけるオフィスには「有機的なオフィス」というコンセプトがあります。時代の変化に応じて、プロジェクトに応じて、必要なスキルは変化し、ミーティングに集まる人数も変化します。そこで、その都度、ユーザーが自在にアップデートできるようにする。むしろ、アップデートしたくなるような空間にすることを考えています。

変えることが楽しいオフィス

例えば、スーパーライトブロックチェアという、椅子にも壁にもなるブロック型のスツールをつくりました。お互いがジョイントできるようになっているため、椅子にしたり、くっつけて壁にしたり、ソファーにしたり、ベッドにしたり、組み合わせて、空間をつくることができます。

しかも、様々な色のカバーの中身は発泡スチロール製のため、すごく軽いブロックです。実は、この軽いということと、ブロックであることと、色を「バラバラにする」ことが、とても重要なのです。

まず、軽いと簡単に運べて、空間を楽に変更できます。しかも、色とりどりのブロックならば、動かすことが楽しくなります。本来、人間は空間を作るのが好きな生物だと思います。しかし、四角い机、全部同じ色のイスがずらりと並んでいる大きな部屋では、誰も動かして、空間をつくりたいとは思わないでしょう。

また、全部が同じ色だと、そこに別の色を加えることに抵抗感があります。けれども、もともと、色がバラバラであれば、その心配もしないでしょう。楽に変更できて、動かすのが楽しく、しかも、変更することに緊張させない。これは、変更しやすい空間をつくるための重要な要素です。

使い手が場作りに「参加できる」方法

「参加しやすさ」というのも僕たちが大切にしているキーワードです。渋谷PARCOの4階にある「ぴゃるこ」というショップのエントランスには、立派なブランドロゴらしきものは見あたりません。大きなホワイトボードに、手書きの店名。それだけです。

このホワイトボードに、店員さんが、いつも、新しいロゴを書きます。けれども、ホワイトボードは、店員さんのためだけではなく、お客さんも落書きができるスペースになっているのです。これは、お客様にそこに何か書いてほしい、一緒にお店に参加してほしいという狙いから生まれたものです。とはいえ、そうしたパブリックな場所に、普通、積極的に絵なんて描くことはできません。

そこで「ぴゃるこ」では、落書きした線や文字に反応して、ホワイトボード上に投影した映像が変化するしかけにしました。そうすることで、絵を描くことに理由がつけられます。理由があると人は参加しやすくなるのです。このように、デジタルテクノロジーを利用して参加を促しました。

大阪ガス行動観察研究所内に作られたワークショップのための空間。参加者の議論に対する心理的障壁を下げるための仕掛けが多数ある。

大阪ガス行動観察研究所内に作られたパーティション。顔を入れると、お姫様になれる。他にも、王様、勇者、魔法使いのキャラクターを制作した。

スナック菓子「ばかうけ」などを製造・販売している、新潟の株式会社栗山米菓のオフィス。有機的な形状のフリーアドレスデスクを導入し、「大人数で集まる」「少人数で作業をする」といった様々なシチュエーションに対応できるようにした。

スーパーライトブロックチェア
椅子、壁、ソファー、ベットとして使用できるブロック型の椅子。軽くて柔らい素材でつくることで、移動の心理的な負担を減らしている。
http://www.team-lab.net/all/products/blockchair.html

渋谷パルコ内にあるセレクトショップ「ぴゃるこ」。異なる色のボックスをくっつけると色が変わる「メディアブロックチェア」で商品をディスプレイ。休日は、イベントやワークショップを行い、ボックスは椅子として利用される。
・ぴゃるこ
http://pyarco.asia/
・メディアブロックチェア
http://www.team-lab.net/all/pickup/mediablockchair.html

「ぴゃるこ」には、エントランスに大きなホワイトボードを設置し、来店者が自由にメッセージが書けるようになっている。

ユーザー参加型の
オフィスデザイン

逆にアナログな方法もあります。ピクシブのエントランスの壁には、3000枚の絵馬を並べました。これは「参加しやすさ」をアナログな方法で解決したものです。以前、ピクシブに遊びにいったとき、色紙がいっぱい飾ってありました。以前のオフィスでは、遊びにきたピクシブのユーザーに色紙を渡して絵を描いてもらっていたとのことでした。けれども、色紙だと絵がうまい人しか描かない。

そこで、オフィスを移転するので、せっかくならば、遊びにきてくれた人みんなに絵を描いてもらう方法を考えよう、と。その時、思いついたのが、絵馬でした。

絵馬はもともと「願いを書いて奉納するもの」ですから、あれば必ず何か書いてくれます。書いてさえくれれば、絵も添えやすくなります。実際、ピクシブのエントランスには、世界的に有名なアーティストから普通の会社員、小学生まで、様々な人の絵が並んでいます。

絵馬というアイコンを使うことで、絵を描くハードルを下げ、オフィスのエントランスに、誰もが参加できる場所をつくることができました。そして、ユーザー参加型のエントランスが、ある意味ピクシブというサービスを表現していると思うのです。

「人を緊張させない」空気をつくる

このように、あれこれ工夫しているのですが、目指しているものを一言でいうなら「緊張させないオフィス」でしょうか。理想は、足を踏み入れた瞬間にその会社のことが一気に分かってしまうようなオフィスです。そうすれば、その会社に対する緊張感もなくなります。緊張感がなくなれば自由に意見が言える空気がオフィスに満ちます。逆に、もし緊張でコミュニケーションが阻害されていたらどうなってしまうでしょうか。間違ったことを言わないように、予定調和な会話しか生まれません。そして、予定調和の会話からは、なにも未来のヒントは生まれないと僕たちは考えています。

人間はこれまでも情報を共有することによって進化してきた生き物です。ある人が稲を育てる技術を見つけたら、それを別の土地の人も受け継ぎ、また別の土地へと伝えていく、といったように、情報をシェアして、バラまいて、広めていく。そのような情報伝達には、間違っているかもしれない不確かな情報でもどんどん話すことができる空気が、とても重要だと思うのです。

コミュニケーションのきっかけに満ちたオフィス空間をつくりたい

インターネットによって、情報共有のスピードは、さらに上がりました。つまり、人間がさらに進化しやすい環境になったということです。ですから、オフィス空間においてもデジタルを使って情報共有していくことで、より会社は進化していけるのではないかと思います。例えば物理的に離れている空間を、ディスプレイとWEBカメラを使って、映像と音声でつなぎ、コミュニケーションのきっかけをつくる。そうすることで、「今、どんなプロジェクトやってるの?」というような小さなコミュニケーションが物理的に離れた空間でも生まれる。どんなに小さくても、きっかけが生まれれば、コミュニケーションは膨らんでいきます。話し足りなくなったならば、ミーティングルームに移動すればいい。大切なのは、コミュニケーションのきっかけをあちこちにつくることなのです。

コミュニケーションのきっかけに満ちたオフィス空間をつくりたい。オフィス全体に情報が浸透していき、知らず知らずのうちに、なんとなく情報を共有することができるオフィス空間を模索していきたい。そんなオフィス空間が、情報社会では、必要なのではないかと思うのです。

WEB限定コンテンツ
(2012.11.14 馬喰町の同社オフィスにて取材)

ピクシブ株式会社のエントランスに並べられた絵馬。様々な人の思い思いのイラストや願掛けを描いた絵馬が飾られている。オフィスに遊びに来た誰でも絵馬に絵を描き奉納できる。

ピクシブ株式会社
イラストコミュニケーション・サービスの「pixiv」を運営する企業。pixivは、投稿者が文章ではなく自身が描いたイラストと、ブックマークしたイラストでコミュニケーションをとる、新しいタイプのSNS。プロのイラストレーターや漫画家が参加しているのも特徴の一つ。
http://www.pixiv.co.jp

河田将吾(かわた・しょうご)

1977年生まれ。京都工芸繊維大学卒業後、2003年ORPPS/河田将吾建築設計事務所設立。個人の邸宅からオフィスデザイン、店舗まで幅広く手掛ける。2009年にチームラボオフィス株式会社を共同設立。2010年河田将吾一級建築士事務所に改称、現在に至る。

 

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