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技術とデザインを自己完結したモノづくり

モノづくりの敷居が低くなれば淘汰が進む

[藤本有輝]マッドスネイル代表、第七創個株式会社 代表取締役

前編で創作の際の試行錯誤について話しましたけど、どんなに苦労してやり遂げたとしても、達成感を感じないんですよ。より上を目指すとか、そういう意味じゃなくて、達成感そのものが手応えとしてやってこない。これって、ある種の障害なのかもしれませんけど。

じゃあ、どんなときに一番テンションが上がるかといえば、すごい発想が降ってくるときなんです。飯を食っているとき、電車に乗っているとき……、ふと衝撃的なアイデアやデザインが湧いてくる、その一瞬。誰かとしゃべっているときに僕が急に上の空になったら、それは何か思い付いてるときです(笑)。

まず形を思い付くんです。その後、素材、作り方と、とんとん拍子に3段階で発想が広がっていく。そこまで思いつくことができれば、あとは時間とタイミングさえあれば実現できますから。それはもう気持ちいいですね、やばいくらいに。

技術とデザインの衝突は非効率

形、素材、作り方と次々に思い付くことができるのは、自分たちでモノづくりをしてきた蓄積があるからだと思います。デザインと技術を分業していると、こうはいかないでしょう。形を思い付いて、たぶん一度そこで止まって、技術屋さんに相談しようとなるわけですよ。それで、「そんなことできるわけない」とか言われて、デザインを変えるか、最悪の場合はそのアイデアをあきらめざるを得ない。

僕は高等専門学校のデザイン工学科で携帯電話や自動車といった工業分野のデザインを勉強したんですけど、一番つまらなかったのが、デザインを詰めていくときに同じ学校の技術専攻の学生と戦わなきゃいけないこと。

僕らは自分たちが考えたレイアウトが実現可能な形に閉じ込められるのを我慢しなくちゃいけないし、技術の学生は出来上がったプロトタイプにデザインの連中が細かい注文をつけるのが面白くない。彼らにとっての芸術品を汚すわけですからね。こういう軋轢は社会に出ても絶対に起こり続けるはずだと思ったし、それは非効率だと感じました。

その点、自分たちで何でもやる完結したモノづくりは苦労もありますけど、技術と衝突しないデザインが可能です。他ブランドのファッションアイテムにしろ、オリジナル商品にしろ、いずれの制作でもぎりぎりのところを攻めていけるのが僕らの強みなんだと思います。

「見せるファッション」と「自己満足のファッション」

2014年にレディスシューズ/アクセサリーのブランド「サーフェスダイブ(Surface Dive)」を立ち上げました。もともとは服のブランドを立ち上げたいと思っていて、今もやりたいんですけど、仕事でお付き合いのあるアパレルの方々が命懸けで制作に励んでいる姿を見ると、軽々しく「服作りたいんです」って言えないんですよね。

Tシャツだったらまだしも、メンズのジャケットなんかはデザインも仕立ても難しい。僕自身、派手なものやコレクション然とした感じが好きじゃないんですよね。ビンテージ古着のような歴史を楽しむファッションが好みなんです。

今のところレディース向けのプロダクトに特化しているのは、そんなところにも理由があります。女の子はビンテージ古着とか求めていませんよね。それは彼女たちがファッションを通して自分を見てほしいから。要するに、見せるファッションなんですよ。

ファッションには「見せるファッション」と「自己満足のファッション」の2種類あると思っていて、どちらの楽しみ方もアリなんですけど、ビンテージ古着は自己満足の世界です。だから、メンズの服を作るとなったら、たぶん僕は自己満足できる服を作ることになるでしょう。

だけど僕は女の子を見る側にいるし、だから女の子のファッションは見せるものであってほしいと思っています。それがデザインにも表れていると思いますね。それに、女の子のファッションのほうがかわいいし、自由度も格段に高い。今のところ、自分としてはレディースの方が作っていて面白いです。

「マッドスネイル」は空間デザイン、プロダクトデザインを手掛けるクリエイティブチーム。2006年、藤本氏が中心となって設立。デザインから原型製作、小ロット生産まで展開するメーカー「第七創個」より発足している。
http://www.mudsnail.jp/

3Dモデリングソフトで作業する藤本氏。コントローラーにはモーターが組み込まれ、現実の手触りに似た感触が得られる。デザインしたものをそのまま3Dプリンターで出力することも可能だ。

モノづくりの環境が整備されても
新しいものを作れるかは熱意次第

3Dプリンターの価格が下がってきたし、産業機械を個人が使えるサービス施設も出てきて、モノづくりの敷居は低くなっていると感じます。いろんな人がいろんなプロダクトを作れる環境が整ってきた。それは非常にいいことだと思います。そういう環境がなかったために、僕らは苦労して自前で作ってきたという経緯がありますから。

ただ、環境が整備されても、それを使いこなして、なおかつ本当に新しいものを作れるかどうかは、結局のところ熱意次第だと思います。

3Dプリンターももちろんデータが必要だし、強度を維持するには計算も必要です。モデリングデータを扱うにはノウハウが不可欠だけれども、そのノウハウを蓄積してまで作りたいと思っているものがあるかどうか。

なおかつ、それをうまく実体化できるかどうか。それから例えばプレス機や旋盤など、機械によってはケガしかねないものもあります。多少のケガをしても、めげずにやり続けられるかどうか。

さまざまなふるいに掛けられて、いいもの、いい作り手が残っていくことになると思います。

付加価値は一朝一夕に確立できるものではない

作り手が増えれば、ますますモノがあふれるでしょう。競争にさらされることで品質も向上するはずだし、オート化も進んでデザインも機械がやる時代が来るかもしれない。

そこで求められるのは付加価値だと思います。デザインを人間がやったか機械がやったか、素材が天然か合成か、縫製が職人の手によるものか大量生産の工場でなされたのか。そういう部分で値段が変わる。10年以上前から言われていることではあるけれども、やっぱりそういう価値は維持されると思います。

具体的にはデザインセンス、素材や強度に関する知識が問われるでしょうし、量産に向けた体制作りも重要です。例えば職人に仕事を依頼するにも、彼らの生産ラインに組み込んでもらうように説得しなきゃいけない。初めての仕事は誰でも慎重になりますよね。その職人の仕事を調べて、「この製品のこの部分と作業は同じです」とか、熱意をもって納得のいく説明ができなければ相手を動かすことはできません。

「よし、じゃあやってみるよ」という一言を引き出すために、自分も努力しないといけない。そういう付き合いを重ねることで、だんだん信頼関係ができて、そこで初めてスムーズな発注ができるようになるんです。そういうつながりがやっと増えてきたけれども、これは簡単にできるものではありません。

単純に「付加価値」といっても、それを確立するには膨大な時間、労力、コストがかかるということです。だからモノづくりの敷居が低くなって3Dプリンターが誰でも使えるようになっても、正直な話、僕らのアドバンテージは揺らがないという自信がある。むしろ業界が活性化するから、いいことだと思いますよ。

WEB限定コンテンツ
(2014.12.2 文京区のマッドスネイル アトリエにて取材)

3Dモデリングソフトで作業する藤本氏。コントローラーにはモーターが組み込まれ、現実の手触りに似た感触が得られる。デザインしたものをそのまま3Dプリンターで出力することも可能だ。


FRP(繊維強化プラスチック)樹脂で植物を圧縮、固着したもの。実験的なプロダクトだ。こうしたトライアルは常時行われている。

藤本有輝(ふじもと・ゆうき)

マッドスネイル代表、第七創個株式会社 代表取締役。1984年東京都生まれ。高等専門学校卒業後、2006年マッドスネイルを設立。2011年第七創個を創立。(左写真提供:マッドスネイル)
http://www.mudsnail.jp/

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