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離職率30%超の組織が「働きがいのある会社」になれた理由

ダイアログ・マネジメントの強化で組織内に信頼関係を作る

[曽山哲人]株式会社サイバーエージェント取締役人事本部長

サイバーエージェントはGreat Place to Work® Institute Japanが行う「働きがいのある会社」の調査で、2012年に第4位となりました。しかし、その道のりは平坦ではありませんでした。かつては離職率30%を越えていた会社が、2003年に社内制度の強化に乗り出し、働きがいのある会社といわれるまでなったのです。

それ以前の社内制度にはいろんな矛盾があったと思います。

成果主義を徹底するあまり個人プレーが増え、雰囲気もギスギスしていました。大量の中途入社で生え抜き社員と中途社員の対立が生じたこともありました。新規事業はうまくいかないことも多いのですが、結果的に撤退となった場合のフォローができておらず、優秀な人材が退職してしまったというケースもありました。

今から考えると、あのころは社長の人事に対する考え方が現場にきちんと伝わっていなかったように思います。社長は人材の重要性についてよく話していたし、ブログでもたびたび触れていましたが、現場の人間、特に中途社員には「言ってることと、やっていることが違う」と受け止められてしまった。経営と現場の間に埋めがたい溝があったのだと思います。

経営陣のメッセージを現場に翻訳して伝える

だったら経営と現場を結びつける存在に人事がなればいい、と気がついてから、困難な状況と向き合えるようになりました。経営陣の言葉って、セリフが鋭すぎて、そのまま社員に伝えても結果的に意図が伝わらないことがある。同じように現場の言葉も、10人に聞けば10人がそれぞれいろんなことを言って、良いという人もいれば悪いという人もいるから、そういう言葉を全部伝えたところで何の意味もない。

「何が本質なのか」を捉えることがすごく大事。言葉をそのまま伝えるのでなく、言葉で表現された本質を捉える。その本質を経営陣から現場へ、そして現場から経営陣へと伝えていくサイクルを築く。人事本部は、コミュニケーション・エンジンになろう、と言いはじめてから、流れが変わったと思います。

社内制度で「共通体験」を作り出す

離職率が高かったころは、社内に助け合える関係が少なかったといえます。社員の横の連携がなく、上司と部下でもたまたま相性がよければ助け合えるといった偶然性に頼っていました。

そこで社員同士の信頼関係を高めるための支援制度を作りました。よく活用されている制度の一つが「懇親会費用支援制度」。チームで食事行くことを条件に月に1回1人5000円を支給しています。この5000円というのが絶妙な金額なんです。5000円あればお酒が嫌いな人でも、食事を目当てに参加できる。制度ができた当初は様子見していた人たちも、今は毎月のように飲みに行っています。

「部活動支援制度」もあります。多くの社員がいずれかの部活動に参加し、サッカー、フラワーアレンジメント、ゴルフ、テニスなど20ほどの部が活動しています。

共通体験が多いほど信頼関係は作りやすい。共通体験がなく、仕事だけの関係だと、業務プロセスの話しかしないので、深いところでつきあえません。

1998年藤田晋氏によって創立されたネットベンチャーの雄。立ち上げから約15年。売上高1200億円、社員2000人の大企業にまで成長したが、ベンチャースピリットはまったく失われておらず、ネット広告の企業からメディア企業への脱皮も果たした。
http://www.cyberagent.co.jp/

社員同士の「共通体験」作りのために、部活や同好会を奨励。部署を横断している活動には、補助金が支給される。現在、活動中のクラブは、ダンス、ゴルフ、フットサル、野球、テニス、麻雀、フラワーアレンジメント、キャンドルなど多彩だ。

ダイアログ・マネジメントは
経営陣がリードする

当社のほとんどの業務が5、6人のチームで運営されています。新規事業を立ち上げるときなど、毎日膝を詰めて打ち合わせをし、ゼロからサービスを作り上げていきます。Webサービスは、サービスを一旦作り終え世に出したあとも、カタチを変えて運用することが必要ですから、作り手側のコミュニケーションはとても重要です。

その違いが出るのはトラブルのときです。メンバーの関係性が密なチームとそうでないチームでは、粘りがぜんぜん違う。トラブルの解決に明確な答えはないので、チームで議論を重ね乗り越えるしかないのですが、信頼関係のないチームではそれができないのです。

現場に任せても社員同士の対話は生まれない

コミュニケーションは、感情の交換なんだと思います。感情が伝わらなければ意味がない。もっといえば感情さえ伝われば、メールでのコミュニケーションだってOKです。でも、やっぱり直接目を合わせて対話をすることの効果は大きいですね。

社員同士の対話は、現場任せだと案外やりにくいものです。やりたい気持ちはあるけれど、やっていいのかどうか分からないし、たいていの人間はコンサバティブで人見知りです。放っておけば、どうしても「やらなくていいなら、対話しないよ」となりがち。

だから、社内で対話の機会を増やしたいなら、経営陣や人事の側から積極的に働きかければならないんです。私は、こうした働きかけのことをダイアログ・マネジメントと呼んでいます。このダイアログ・マネジメントこそ、多くの組織に求められていることではないかと思っています。

「しらけのムード」は徹底的に排除する

当社の役員は、社員たちと、週に2、3回は食事の機会を持っています。今、役員は8人いますから、役員全体で1カ月にのべ100人以上、年間にするとのべ1200人もの社員と、食事をしていることになります。

会社が大きくなって人数も増えたとき、一番心配なのは「しらけのムード」が広がること。仕事にやりがいが感じられない、自分の存在意義が見出せない、といった「しらけ」は、感染力が強く放っておくと組織に蔓延してします。

しらけは早期に発見し、徹底的に排除しなければなりません。「しらけの排除」は経営陣が行うべきで、組織的な問題であれば、経営の見直しをする。個人的な問題であれば解決の相談に乗る。社員の声を聞き続け、アンテナを立てておくこと。社員の「働きがい」を引き出すのは、経営陣の仕事なのです。

WEB限定コンテンツ
(2012.3.30 渋谷区道玄坂の同社オフィスにて取材)

【21世紀を代表する会社】を作るため、社員に共有されているルール「ミッション・ステートメント。

インターネットという成長産業から軸足はぶらさない。ただし連動する分野にはどんどん参入していく。スケールデメリットは徹底排除。「チーム・サイバーエージェント」の意識を忘れない。本音の対話なくして最高のチームなし。採用には全力をつくす。有能な社員が長期にわたって働き続けられる環境を実現。若手の台頭を喜ぶ組織で、年功序列は禁止。法令順守を徹底したモラルの高い会社に。ライブドア事件を忘れるな。ネガティブに考え、ポジティブに生む。自分の頭で考え、オリジナルを創り出す。世界に通用するインターネットサービスを開発し、グローバル起業になる。

冷暖房のコントロールパネルに貼られたメッセージ。オフィスのあちこちから、こうした遊び心あるメッセージとともに、仕事への情熱が感じられる。

曽山哲人(そやま・てつひと)

1974年神奈川県生まれ。上智大学文学部英文学科卒業後、伊勢丹を経て、99年サイバーエージェントに入社。インターネット広告事業本部統括、人事本部人事本部長を歴任後、2005年に人事本部人事本部長に就任。08年より現職。著書に『サイバーエージェント流成長するしかけ』(日本実業出版社)など。
http://www.cyberagent.co.jp/

 

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