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仕事の社会的意義を説けば社員は働きがいを感じる

マネージャーがやりがいを持つ組織は強い

[駒崎弘樹]NPO法人 フローレンス 代表理事

私が経営するフローレンスは、病児保育・病後児保育などのサービスを提供するNPO法人です。売り上げは対前年比40%で伸びており、当社の事業の核となる病児保育は順調に成長しています。

企業であれば、もっと売り上げを伸ばし、さらに大きな組織にしよう、と思うところかもしれません。しかし、売り上げの拡大は我々にとって本質的な経営目標ではありません。我々が重視しているのは「社会にどれだけのインパクトを与えることができたか」という点。「何人の人を助けたか」が我々の数値目標であって、売り上げはそこに付随してくるもの、という認識です。

売り上げ目標はありませんが、一定の利益率の確保は再投資のために必要です。当社の採用に応募してくる人の中には、「NPOだから儲からないことだってできる」と思っている人もいるのですが、それは大きな勘違いです。

儲からないことばかりやって、どうしたら従業員に給料を支払えるのでしょう。NPOであっても、持続可能な活動をするためには、財務状況は健全でなければなりません。

だからといって、企業のように「儲かりそうだから」というフィルターで、事業を選別することはありえません。たとえば当社が、子どもたちに英語の英才教育を行う事業を始めたとしたら、「なんでおたくがやるの?」と思われ、当社が築いてきたブランドを壊してしまうでしょう。社会的課題を解決するのはNPOの存在意義です。利益を確保するために、社会性のない事業に取り組むことはありえません。

社会公共性と経済性を両立させることは可能

昨年の12月には、福島県・郡山市のショッピングセンターに、「ふくしまインドアパーク」という屋内公園を作りました。原子力発電所の事故の影響で外遊びが出来ないこどもたちのための遊び場で、約40坪ほどのスペースに遊具が置いてあり、子供むけのイベントなども行っています。

屋内公演の運営など、普通のやり方でやったのでは、まず儲からない事業です。けれど、そこにある程度は儲かるしくみを作り上げなければならない。寄付を募るのは1つのアイデアですが、被災地への関心は時間と共に遠のいており、寄付額を積み上げていくことは厳しい状況になっています。

今は利用者から小額の利用料をいただき、被災地の中でまわせるスキームを模索中です。社会的には大切だけれど、経済ラインにはあわないことに、どうにかして経済性をもたせる。その両立がNPOの難しいところだと思います。

近代日本資本主義の父といわれる渋沢栄一は、『論語と算盤』という本ので、道徳と経済、倫理を両立させ、経済を持続的に発展させることの重要性を説いています。社会性と経済性の両立はNPOだけでなく、企業も含めた経済全体の課題なのです。

現に、今の企業は社会的責任(CSR)をきちんと果たさなければ、見向きもされなくなってきています。企業とNPOの境界はよりあいまいになっていく。両者が近づきあって、クロスオーバーすることが近未来的に起こるのではないか、と私は考えています。

急病の子どもを預かるサービスを展開をするNPO法人フローレンス。病児保育のほか、待機児童問題や企業のワークライフバランスの実現などにも取り組んでいる。
http://www.florence.or.jp/

原発事故の影響で外遊びができない子どもたちのために、福島県郡山市のショッピングセンター内に「ふくしまインドアパーク」を設立。互助会員は 月額500円で使いたい放題、ビジター利用は1回500円。屋内トランポリンや滑り台、プラレールといった遊具がそろっている。

中間管理職が思う以上に
若者は“やりがい”を求めている

企業に社会性を求める傾向は、若者に強くみられます。以前、新卒を対象にした就職意識調査の結果を見て、私はびっくりしたことがあります。

企業を選ぶポイントの上位に並んでいたのは、「仕事と生活を両立させたい」、「社会的に意義のあることをしたい」といった価値観で、「出世したい」「お金があればなんでもいい」といった価値観はほとんど重視されていませんでした。

22,3歳の若者から、仕事とプライベートの両立なんて言葉がでるなんて、1979年生まれの私でさえ、「俺たちのころとは変わっちゃったな」と思ったのですから、45歳くらいの人にしてみたら、マリアナ海溝くらいの溝があるのではないでしょうか。

若い人ほど「今、オレがやってる仕事って意味あるのかな?」ということに敏感です。若手からそういう疑問を投げかけられたとき、上司が「そんなことグダグダいうなら1円でも売り上げ上げて来い!」などと言おうものなら、「じゃ、辞めます」とあっさり言われてしまうかもしれません。自分の仕事に社会的意義を見出せない若者に、「石の上にも3年だろ」と言ったところで、わだかまりは解消されません。

中間管理職が会社の意義を語れるかが鍵

従業員のロイヤリティを保持するには、「働きやすい環境」を作るだけでなく、自分の会社が果たすべき社会的役割を語り続けることも必要だと思います。テレアポだって、工場での単純作業だって、突き詰めていけば社会的に意義のあることなんだよ、というストーリーを語れるか。そういうコミュニケーション能力が、中間管理職に求められているのだと思います。

中間管理職は職場のカギを握ります。会社の成長を担うのは彼らなのです。当社ではマネージャークラスを対象にした「コーチング制度」を設けています。

マネージャーひとりひとりにエグゼクティブ・コーチをつけて、1カ月に1回、各人の目標をコーチと一緒にレビューし、内省の時間を持ってもらっています。コーチングで設定する目標は具体的な数値だけではありません。部下にほめられる人間になりたい、といった人としての成長もコーチにサポートしてもらっています。

人生のステージに合った働き方ができる社会へ

今は1つの会社に一生いる時代ではありません。うちの会社にいた人でも、卒業して起業家になった人、市議会議員になった人などさまざまです。学生インターンで働いてくれていた人が、その後弁護士になって、今は当社の顧問弁護士をお願いしています。

会社を辞めた人は裏切り者扱いされた時代もあったと思いますが、今はそういう認識では優秀な人を遠ざけてしまいます。卒業生も含めて、フローレンスのファミリーだよね、というのが私の考え方です。

人生にはさまざまなステージがあります。介護のために、どうしても田舎に帰らなければならないこともあるでしょう。奥さんを看病している人に、もっとクリエイティビティを発揮して、と言っても、今はムリだよ、となる。家族を犠牲にしては楽しく働けません。人生の、このステージでは一度離れたけれど、次のステージではまた一緒だよね、といった関係が築ければいい。人としてのリスペクトは続いていくのです。

WEB限定コンテンツ (2012.3.6 千代田区飯田橋の同法人オフィスにて取材)

日々の仕事の意味付けとして、フローレンスでは「ピカリパット」という運動を実践している。社員が「ピカッ」としていたり、「パッ」としたことをしたら、カードに書いて褒める。四半期に一度、最もカードを集めた人と書いた人には「特別有給休暇1日券」をプレゼントしている。

駒崎弘樹(こまざき・ひろき)

NPO法人フローレンス代表理事。1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部在学中にITベンチャー企業を設立、様々な技術の事業化を果たす。大学卒業と同時にITベンチャーを共同経営者に譲渡。病児保育問題の解決や、育児と仕事の両立を支援するNPO法人フローレンスを設立。厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員、NHK中央審議会委員、東京都男女平等参画審議会委員、慶應義塾大学非常勤講師などを兼任。
http://www.florence.or.jp/

 

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