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省庁間の抱える複雑な社会問題を
参加型デザインの手法で解決する

市民・企業・省庁を巻き込むイノベーションユニット

[MindLab]Copenhagen, Denmark

  • 国内の複雑な社会課題を解決する
  • 公務員に参加型デザインの価値を理解してもらう
  • 管轄外の省庁の課題も解決する存在に

「マインドラボ」はデンマークの経済ビジネス省、子供・教育省、雇用省が共同で設立したシンクタンクでありドゥタンクだ。政府組織として、デンマーク国内の公共性の高い課題の改善に取り組む。例えば「教育の現場に信頼を取り戻すには?」この依頼は大臣から直接寄せられたものだという。

同所のプロジェクトは、まずスタッフが現場に足を運び、実際に変化を起こす場所にいる人たちの話を聞くところから始まる。学校のプロジェクトであれば、学校のほか自治体にも足を運ぶ。自治体の協力がなければ教育現場の改善は困難だからだ。

解決策を導き出すためのサポート機関

市民を巻き込んでワークショップを開く際は、スタッフのほうから市民を訪ねることのほうが多いという。「ケガで失業している人の気持ちがわかりたければ、その人をここに呼ぶよりもその人の家に行くほうがいいでしょう」と語るのはプロジェクトマネジャーのルナ・サブロエ氏だ。

エスノグラフィーなどの社会学的な手法を用いてデータを集める様子は録画、録音され、依頼者である官庁の人間たちとも共有する。マインドラボは解決策を考えるのではなく、解決策を導き出すサポート役だ。したがってプロジェクトは問題を抱えている人たちと一緒に進めることが第一と考えられている。

こうして問題点を洗い出し、依頼元に解決策を提案した後も同所のコミットメントは続く。最終的にはユーザーを巻き込み「収益アップ」「サービスの充実」「製品化」「民主主義への貢献」のいずれかのゴールにたどり着くことが使命だ。

マインドラボは、経済ビジネス省の庁舎内1Fに入居している。ウェブサイトからはこれまで解決した課題のレポートや、コンサルティングに活用したメソッドなどが公開されている。
設立: 2002年
職員数: 15人(2012)
http://www.mind-lab.dk/

ワークショップで使うツールの開発も使命の一つ。年度末に発表するアニュアル・レポートもすべて所内で作成、配布している。

  • 国内外から有識者を招き定期的にセミナーを開催。この日のテーマは「SNSが市民社会に与える影響」だった。

  • セミナーの様子をWebで動画配信するなど、ライブ感を出せる場になっている。

  • 同所のアイコンとして知られる「エッグルーム」。カプセル型のミーティグスペースだ。

  • プロジェクトにはマインドラボのスタッフが専属でつき、最後までコーディネートする。

参加型デザインを理解した
ゼロベースの発想で政策を提言

同所で働くスタッフはみな公務員という扱いだ。7名ほどのコアスタッフのほか、各プロジェクトに関わるために半年〜1年という期間で省庁から出向するメンバーがいる。彼らには同所独自のメソッドやアプローチを学ぶトレーニングが施される。

出向期間を終えて各省庁に戻るときに、マインドラボのノウハウを持ち帰ってもらうためだ。こうして省庁のなかに参加型デザインの意義を理解する公務員たちが増えていくことになる。

「ビジュアルデザインが有効なツールになるのは、このうちImplementation(実行)のプロセスです。なぜなら改善の内容や結果を具体的に提示できるから」とサブロエ氏。問題を抱えている人たちと議論を一緒に解決策を実行に移していくデザインのプロセス。

そこではプロトタイプを作り改善点を視覚化することもまた欠かせない。「これはどうか?」「違う」「これは?」「違う」などとイラストやプロダクトなどのプロトタイプを使ってやりとりを繰り返しながら具体案を検討していくのだ。トライ&エラーのなかでより質の高い解決策が生まれるとともに、関係者の合意形成が図られていく。

この日は、ドバイから視察団が来訪。マインドラボの考え方や運営手法などを取材していた。タテ割り行政で省庁の意思決定に時間がかかるという問題は、デンマークや日本に限ったことではない。省庁を横断する機関があれば、複雑な課題に対して迅速に解決策を出せる。マインドラボは、そのモデルケースとして世界各国の注目を集めている。そのため、近年は中南米や東欧、中東の政府視察団から運用ノウハウのレクチャーを依頼されることが増えているという。

スムーズな参加を促すために
「人を緊張させない空間」を

ここでは週に一度程度のペースでオフィスに関係省庁のメンバー集めて様々なセミナーが行われる。こうした活動もユニットの有効性とプロセスを広める活動の一環だ。彼らの参加がスムーズになるよう、空間作りのコンセプトは「人を緊張させない」こと。

デザイナーのアネット・ヴェーリング氏は「お洒落過ぎて居心地がよくないブティックのようにならないフレンドリーな空間」と評する。オフィス内がグリーンとホワイト中心の柔らかいカラーリングなのは、その表れだ。

コーヒーや軽食をとりながら気軽なコミュニケーションをとれる雰囲気が生まれている。劇場のように空間を自在に作り替えることも特徴的だ。すべての家具にキャスターがつき、イスは折りたたみ式。ライトはイエロー、ブルー、ピンクと変えられる仕掛けになっている。

こうしたオフィス空間は、同所に出向してきた公務員たちの教育にも一役買っている。サブロエ氏は言う。「どうしたら公務員に変化の必要を理解してもらうことができるか常に考えている。そしてスペースやエリアというのは、仕事のやり方を変える必要があるということを、言葉ではなく自然に伝えてくれるものだと思います」。

マインドラボは今年で設立10年を迎える。今では、これまでの成果が認められ、同所を所有する3省庁以外の省庁からも業務を請け負うようになっている。

WORKSIGHT 04(2013.6)より

アネット・ヴェーリング
Anette Væring
プロジェクトリーダー/デザイナー

デンマーク・デザイン・スクール、スウェーデンのマルメ大学を卒業後、デンマークのテレビ局に入社。ドキュメンタリー制作などに携わる。2006年よりマインドラボに参画。

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