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開かれたコミュニティとしてのオフィスをつくる

コミュニティが新しいワークスタイルを生む

[田川欣哉] 株式会社タクラム・デザイン・エンジニアリング 代表/デザイン・エンジニア

takramのオフィスは、どうあるべきか。最近、みんなでそのことについて話し合うことが多いです。絶えずいろんな案が出てきて、社内はちょっと「引っ越し妄想大会」みたいになってます(笑)。なぜそんな話になっているかというと、今、会社として「コミュニティとしてどうありたいか」を考えているからなんです。

ここで言うコミュニティとは、職場とそれを取り巻く人たちを指します。長期的に見れば、人は流動的に動くものだし、他の企業に属していても僕らのコミュニティに参加することも可能です。たとえば勉強会に来てもらうとか、小さいレベルでもいい。自分のアイデアを披露すれば、実は近いことを考えている人がいることが分かる。そして議論が活性化していく。こういう化学反応を僕らから主体的に起こせたらいい。いろんなところで発信しつつ、それに反応した人たちが集まれるプラットフォームのような場所が理想です。

その中心になるのは、やはりオフィスです。オフィスを単なる作業場と捉えずに、思想が近い人たちが集まる環境だと考えた場合、何が必要なのか。まずは、空間的な居心地の良さ。人が集まる場所って独特の魅力があると思うんですよ。「ちょっと行ってみたいな」とか、来た人が「なんだかずっといたいな」とか、そういう気持ちにさせる空間が必要です。

また、柔らかい雰囲気も大事。堅い感じの雰囲気だとなかなかアイデアが出てこない。気軽に雑談ができたり、突拍子もないことを言える、素人的な雰囲気であり、かつ玄人的に設計に落とし込んでいける、そんな場所であること。それらが両立できている空間があれば、優れたアウトプットを出せるはずです。

takramでは月に1回「ビアパーティ」を開いています。フリードリンク、フリーフードでtakramに興味持ってくれた人たちに来てもらって、お酒を飲みながらワイワイ盛り上がったり、プレゼンをしてもらったり、仕事の話を聞いたり見たりするんです。そういうカルチャーはずっと持っていたいですね。

だから、外に開いている感じは大切だと思います。風通しをよくすれば、ちょっとした集まりでもすごく面白くなる。それは、どうしたら実現できるのか。より良いコミュニティをつくるには、どうしたらいいのか。最近はそういうことを考えています。

人間と空間が一つのシステムになってようやく機能を発揮する

現代社会はリアル世界のコミュニティが崩れ、その埋め合わせとしてSNSが出てきている。みんなの拠り所になる場所は、一人ひとりの人生にとっても意味合いが大きい。村が壊れて、次に企業がコミュニティになって、でも終身雇用がダメとかいろいろ言われて、コミュニティとしての集約力を失ってきています。僕個人も、3.11があったからかもしれないけれど、やはり拠り所ってすごく大切なのではないかと思うようになりました。

空間づくりで大切なのは、「人が働くとはどういうことか」ということについてのしっかりとした視点です。いい空間って、人間と空間が一つのシステムになって機能している状態だと思います。20人のときすごく心地よかった空間が、会社が成長して倍になったとき、ギクシャクした感じになってしまったなんて話をよく聞きますよね。空間も柔軟に新陳代謝しなければならない。もしプロジェクトベースで仕事をする会社だったら、定期的に変わるプロジェクトに柔軟に対応できる環境じゃないといけません。

デザインとエンジニアリングの2つの視点を活かしたプロダクトデザイン・UI開発からアートインスタレーションまで幅広い分野を手掛けるtakram design engineering。2006年に設立された。
http://www.takram.com/

takramのエントランス。シンプルなロゴが飾られている。オブジェの中心にある白い丸には、よく見ると「Hello!」という文字が書かれている。オフィスのデザイン設計は、松井亮建築都市設計事務所。

オフィスは、東京・新宿御苑に面したビルにある。大きい窓からの見晴らしはよく、新宿御苑の緑が目に飛び込んでくる。いつも四季を感じられるのが特徴だ。
photo by Tetsu Hiraga

チームの構成員の一人として
クライアントのなかに入り込む

僕らはプロジェクトの最初にクライアントの方々に、「最初は、非常に効率が悪く見えると思います。でも、そこはおつきあいください」という話をすることがあります。一方で、僕らのクライアントからの仕事はリピート率が高い。一回お仕事をさせていただくと、継続的に何年もお付き合いするということが多いのは、takramの一つの特徴だと思います。

まず僕らはある意味素人としてプロジェクトに入っていきます。でも、やればやるほどスピードと精度が上がっていきます。異分野の人たちをどうやって巻き込んでプロジェクトの推進力にし、商品にしていくかという部分については、経験とスキルがあります。チームワークのコーディネーションの力、プロトタイプを作る力。そういったことがカチッとはまると良いプロジェクトになります。

多くのプロジェクトでは、クライアントの企画の方やデザインの方、エンジニアリングの方で構成されるチームの中に、僕らがメンバーとして入って、一体となってプロジェクトをやっていくという感じになります。イノベーションの因子はすでに会社の中にある場合が多く、それをどうやって取りまとめていくか、その部分をプロトタイプを作ったりしながら模索していくのです。

上層部の話に耳を傾け、現場に落ちているアイデアを集める

プロジェクトの入り口では、クライアントの方々とできるだけたくさん会うようにしています。取締役レベルの人たちから、大きな方向性の話を聞いたり。それもプロジェクトの担当スタッフの人たちと一緒に聞きにいくんですよ。そうすると、その人たちも「今日は僕らも初めて聞く話がありました」なんてことがよくあります。

一方で企画・エンジニアリング・デザインとった現場の方々ともワークショップをやったりします。全員の手を出すワークショップという意味で「オールハンズワークショップ」と呼んでいます。そこで現場に落っこちているアイデアを集めるんです。

そのようなプロセスを経ることで、経営層と現場の意見がそろっていなかったり、双方が思い込みで動いてたりといった課題が見えてきます。それを最初にあぶり出しておくのです。そのうえで、「どういう方向性でアイデアを集約していけばいいか」「製品やサービスとして実現できるのか」といったテーマで、コア・チームの人たちとコンセプトを詰めていきます。上の人も下の人も議論に入ってきてもらうことで、議論が活性化するように進めていくのです。

プロトタイピングがクライアントの現場にも影響を与えた

意見が集約されてきたら、プロトタイプを作って、コンセプトを検証していきます。プロトタイプになっていると、具体的に手で触れる形になってるので、上の立場の人たちも分かりやすいんです。1回プロトタイプを見せて、見せたあとで詳細な解説をすると話がすんなり通ることも多い。

嬉しいことなんですが、あるクライアント企業の中では、プロトタイプを作ってから進めるというプロセスが、現場のカルチャーになりはじめています。昨日もその人たちと話をしていたんですが、「新しいプロジェクトではプロトタイプを作って…」という話が彼らから自然に出ていた。それは企業の中での働き方に影響を与えているということで、嬉しく思っています。

WEB限定コンテンツ
(2012.1.24 新宿御苑前の同社オフィスにて取材)

EVA
Economic Value Addedの略で「経済的付加価値」の意。アメリカのコンサルティング会社スターン・スチュアート社が考案した財務指標。利益を投入された資本に対して比較したもの。財務分析や投資分析などに使われる。

ワークスペースには、あえて段差をつけている。視点の高さや方向を変えることで、新しい発想が出やすくなるという。
photo by Tetsu Hiraga

社内で最も高い場所にあるワークスペース。「オフィスの理想は、常に何人かが暇そうにしている状態。全員が余裕のない状態だと、大きなプロジェクトが入ってきたときに、クリエティビティを発揮できない。ある程度の”のりしろ”が必要なんです」(田川氏)
photo by Tetsu Hiraga

田川欣哉(たがわ・きんや)

1976年生まれ。takram design engineering代表。1999年東京大学工学部卒業、2001年英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修士課程修了。ソフトウェアからハードウェアまで幅広い製品開発を手掛ける。手がけた主なプロジェクトに親指入力機器「tagtype」、NTTドコモ「iコンシェル」、無印良品「MUJI NOTEBOOK」などがある。07年Microsoft Innovation Award 最優秀賞、独red dot award: product design 09など受賞多数。 http://www.takram.com/

 

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