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デザインとエンジニアリングの垣根を壊したい

クリエイターの成長を促すデザイン集団

[田川欣哉] 株式会社タクラム・デザイン・エンジニアリング 代表/デザイン・エンジニア

会社をスタートさせてから、6年ほどが経ちました。少しずつメンバーも増え、現在は15~20人ほどのメンバーがプロジェクトに取り組んでいます。手掛ける仕事も、プロダクトデザインから、携帯電話のUI(ユーザインターフェイス)デザイン、アプリ開発、アートインスタレーションまで、多岐にわたっています。それに伴って、働き方も毎年変わってきました。

ただ、会社の幹の部分—-何をするための会社かという理念は最初から変わっていません。デザインとエンジニアリングは、一般的な企業では理工系と芸術系のようにしっかりと部門に分かれていることが多いんです。でも、どちらか一方だけだと一体感のあるモノづくりは難しい。takramは、その部分に問題意識を持って、デザインとエンジニアリングの垣根を壊していこうという人たちが集まっている会社です。

最近は、文系との垣根を超えていくということも新しいテーマとして加わってきました。モノづくりには、クリエイティブ(デザイン)とテクノロジー(エンジニアリング)という2つの軸があります。その周辺に、経営や企画、マーケティング、営業などがある。こうした職種は、モノづくり現場とは直接関係がないと思われがちです。しかし、このような職種の人達もきちんと設計やデザインの話に巻き込んでいかなければ、結局は良いモノはできないと思っています。そのような意識から最近「ストーリーウィーヴィング」というワークショッププロジェクトを立ち上げました。このワークショップはコンセプトのプロトタイピング手法を中心に考えるもので、分野横断的なチームがどのようにコンセプトを練り上げていけるか、といった部分にフォーカスを当てています。このワークショップに限らず、常に新しいやり方を模索しています。

分業の構造に対するアンチテーゼ

takramに在籍しているメンバーには、共通点があります。それは、分業に対する問題意識を持っているということ。特に、モノづくりの現場って、分業体制が所与の条件になっている場合がほとんどです。本来、「どういう製品やサービスをつくるか」「いかに効率的につくるか」というテーマがまずあって、それを実現するための構造として分業が導き出されたのだと思うですが、今はどちらかというと、分業の構造が先にあって、そこから製品やサービスが成り行きで生み出されている気がします。

それから、インターネットが普及したことで、個々人の働き方は多様化しました。コンピュータのおかげで、専門家の定義が昔よりもずいぶん柔らかくなったし、少子化が進めば、多くの人が70歳くらいまで働くようになる。僕らより下の世代は、一人の人間の中に、複数の専門性を持っていくことが普通になっていくかもしれません。そういうことを考えていくと、やっぱり「分業以外の新しいアプローチがあるのでは」と思ってしまうのです。

ビジネスを効率的に進めたいなら、人材の機能はある程度固定した方がよいでしょう。各人は専門を突き詰める。会社は専門性を類型化して役割を決める。役割を集約して部門化する。異なる役割を組み合わせてチームを作る。部門を徐々に大きくしていく。このような方法論が一般的だし、人材の置き換えもきくし、仕事が増えたときの調整もきくでしょう。やればやるほどスピードが上がり、経験が蓄積されていくので、数字だけで見ていくと、効率的になっていきます。

ただ、それがクリエイターにとって良い状況かというと疑問が残ります。クリエイターが、同じような作業を繰り返し続けていると、そのうちクリエイティビティが摩滅してくんですね。そういう問題意識もあって、takramでは、できるだけその一人ひとりの役割が一本化しないように気をつけています。平面のグラフィックをやっていた人が3DでCADに挑戦するとか、大歓迎です。「プロダクトデザインをやってみたい」「インタラクティブに動くプロトタイプを作りたいので、回路設計の勉強したい」とか、そういう奮起に期待しているし、今、誰が何に挑戦したいかを皆でシェアするようにしています。

takram design engineeringは、少数精鋭のクリエイティブ集団。デザインとエンジニアリングの双方の視点から、プロダクトデザインや、まったく新しいUIの開発、展覧会などでのインスタレーションなど、幅広く手掛ける。新世代のデザイン会社として注目されている。
http://www.takram.com/

ストーリーウィーヴィング
Story Weavingとは、「ものがたりを編む」という意味。タクラムの渡邉康太郎氏らが中心となって提唱している考え方で、「ものづくり」と「ものがたり」を両立させるために、コンセプトの構築と製品開発のプロトタイピングを同時並行的に行う手法のこと。

4領域のなかを動きながら、
モノをつくるのが理想

スキルについては、もちろん軸になるものは必要です。たとえばグラフィックデザインなら、そこで、ちゃんとデザインできなければいけない。一定のレベルがないと仕事はできないですから。そこに軸足を置きつつ、おそるおそる自分の知らない領域に足場を探していって、踏めそうなところがあったら思い切って踏み出す。それをチームワークの中でやっていくというカルチャーがtakramにはあるんです。

デザインとエンジニアリングという軸と、ハードウェアとソフトウェアという軸があるすると、4つマス目ができます。普通はこの4つにそれぞれ専門家が存在しています。それぞれスキルも素養も教育も違いますから。その4つのマスを一人ひとりがまんべんなく動きながら、ものを作っていくというのが理想です。

僕らデザインエンジニアの中でも、この4領域の中での強み弱みがメンバーごとにあります。ソフトウェアのエンジニアリングの部分でスキルの高い人がいたり、逆にハードウェアのデザインに強い人がいたり、それぞれ違います。takramにはいろんなタイプのプロジェクトが入ってくるので、強みを持ってる人が設計デザインのリーダーになり、違う分野の人—-たとえばグラフィックデザイナーをアシスタントに入れたりします。そこで少しずつ教えていく。仕事を進めながら、新しい分野の基礎知識が少しずつ蓄積されるようにしています。不思議なもので、何回かそういう経験を積んでいくことで、ふとしたタイミングから自分でできるようになっていきます。これは「成長」ですよね。会社としてはそこをサポートできればと思っています。

これは言うは易しですが、やるのは結構大変です。先ほど話したように、効率を上げるなら、役割に個人をあてて洗練させていくほうが速い。だけど、それだと学習曲線的には最初にヒュッと上がって、そのあとジワッとしか上がらなくなるんですね。この成長鈍化は面白くない。

だから、あえて全然知らない分野に入るようにしています。ゼロからのスタートだから、最初はヒュッと上がりますよね。それで次のプロジェクトでまた知らない分野に入る。またヒュッと上がる。それを繰り返していくんです。習熟率とその時間で表されるエリアをその人のポテンシャルだとすると、結構面積を稼げるんですよ。それは働き方のスタイルなので、良し悪しじゃないんですが、僕らはどちらかというと小刻みに学習曲線を描いていくほうを好むということです。

僕らは独立系の会社なので、いろんな仕事が入ってきます。クルマの仕事もあれば空間の仕事もあるし、平面の仕事もソフトウェアもサービス開発もある。だから、毎回プロジェクトごとに急速な学習曲線を描かなくてはいけない。特定の分野に習熟している人と比べると、最初のほうの効率は悪いんです。

ただ、他の分野や業種で使われている知識を応用して、新しい切り口を展開したり、その分野に習熟した人が思いつかいようなインテグレーションの方法を生みだせる場合があるんです。これが僕らの強みの一つだと思っています。

常に学び続けることに対してタフでなければならない

インターネットが出てくる前に比べると、時代の動きが2、3倍速くなっているという印象があります。そういう状況では、自分は何屋さんだと決めてかかっていると、時代と一緒に過去に流されてしまうことがありえます。

時代が移り変わっていく中でも、変わらない僕らの役割は基本的に「人間の周辺に道具やサービスをつくっていく」ことです。5年前と同じ問題を解決しなければならないとしても、時代が変われば人も変わっているので、異なるアプローチが求められます。そこにきちんと関わっていくことが大切だと思っています。

たとえば、自分の得意分野があって、ちょっと時代とズレているとします。そこで「ちょっと古いけど、まだまだ大丈夫だ。自分はこれが得意だし」と自分の得意分野に固執していると、取り残されていくかもしれません。カスタマーにそこら辺のギャップ感は結構伝わってしまうものです。それは売れないとか流行らないとかいうかたちで、結果として現れてきます。一方で、時代に迎合しすぎても面白いものは生まれない。ある種、「鈍感」であることも必要です。

その適度なバランスを保ちつつ、時代と並走できる人物像とはどんなものか。やっぱり、学び続けることに対してタフな人でなければならない。まったくの未知の分野に対しても、前向きに取り組めることが大事。極端な言い方をすれば、自分が過去にやってきたことを簡単に捨てられる人。そういう人たちが集まる環境をつくれば、長期間にわたって、価値を提供し続けられる。takramはそういう人が集まる場所になっていければと思っています。

WEB限定コンテンツ
(2012.1.24 新宿御苑前の同社オフィスにて取材)

建築家の松井亮氏、東芝デザインセンターとコラボレーションしたインスタレーション作品「Overture」。ミラノサローネ2009に出展された。タクラムは、空間に吊るされた電球状のオブジェをデザイン・設計した。
Photo by Daichi Ano

NTTドコモの携帯電話に搭載された「i-Widget」。地図や時計、天気予報といったウィジェットアプリを管理できる機能だ。
© NTT DOCOMO, Inc

良品計画、日本デザインセンターと共同開発した、iPhone/iPad用アプリ「MUJI NOTEBOOK」。アナログ感覚の手書き入力が可能で、写真やPDFに文字を書き込める。手書き文字認識と予測変換機能が付いており、文字入力ツールとしても使える。
© 良品計画
Planning and Distribution:Ryohin Keikaku Co., Ltd.
Planning, Project Management and Visual Design:Kenya Hara and Nippon Design Center
Planning, Software Design and Development: takram design engineering

田川欣哉(たがわ・きんや)

1976年生まれ。takram design engineering代表。1999年東京大学工学部卒業、2001年英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修士課程修了。ソフトウェアからハードウェアまで幅広い製品開発を手掛ける。手がけた主なプロジェクトに親指入力機器「tagtype」、NTTドコモ「iコンシェル」、無印良品「MUJI NOTEBOOK」などがある。07年Microsoft Innovation Award 最優秀賞、独red dot award: product design 09など受賞多数。 http://www.takram.com/

 

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