このエントリーをはてなブックマークに追加

アットホームな場づくりが異なる個性を結びつける

自由な交流がクリエーターを呼ぶコワーキング・スペース

[Republikken]Copenhagen, Denmark

  • 個人で働くプロが集まる生産的なコワーキング・スペースの創造
  • 利用者の自主性を尊重しながら家庭的な交流の機会を用意
  • 独自のコミュニティ文化が生まれ、場そのものに個性が誕生

リパブリケンは、クリエイター向けの「コワーキング・スペース」として2005年にスタートした。当初は、グラフィック・デザイナーやウェブ・デザイナー、写真家など、メディア関係の利用者が大半だったが、その後、建築家や設計エンジニア、工業デザイナーなど、建築関係の利用者も増えていった。

現在では、それらのクリエイターを中心とする90人ほどのクライアントが、ここで空間を共有しながら働いている。業種や所属する組織を超えて、人々がお互いの持つ技術やアイディア、人的ネットワークなどを活かし合いながら、さまざまなコラボレーションを行っていく、コペンハーゲンにおける新しい創造の拠点になりつつある。

充実したインフラが才能あるクリエーターを引き寄せる

施設の中心は、70〜80人ほどを収容できる広いオープン・オフィス。リパブリケンのクライアントになる人は、まずここに席を確保する。契約は最低3カ月からで、それ以降は1カ月単位で更新していく。ここの環境やカルチャーを気に入って、長期での契約になっていく人が多いという。

オープン・オフィスの他に、イベント・スペースや大会議室にもなる大きなカフェテリア、工作室、デザイン室、ミーティングルーム、一般の人たちにも開放されているカフェなどがあり、リパブリケンの契約者であれば、基本的に誰でも使うことができる。工作室には、個人での所有が難しいCNCマシンなども備えられ、クリエイターたちの創作を助けている。

リパブリケンを共同で経営するオーナーたちは、常に「より良い仕事環境を提供しよう」と努めてきた。そして、それと同時に「人と人とのコネクションを築くこと」にも力を入れてきた。「私たちは、クライアント同士の交流を重視しています。ネットワークを広げていくのはとても大切なことです」と語るのは、パートナーの1人であるラウ・ゴットハード・クリステンセン氏。

働く場所や施設を共有していれば、人々は自然と“顔なじみ”にはなっていく。しかし、それだけでは、コラボレーションをする関係にまでは発展しにくい。お互いが必要とする技術や人的ネットワークなどを持っているのに、よそよそしい関係のまま終わってしまうこともあり得る。

人々をよりつながりやすくするために、リパブリケンのオーナーたちは、カフェなどで積極的に挨拶をしたり、会話を始めたりして、「オープンな雰囲気をつくろう」と心がけている。より具体的に「彼に会った方がいい」とアドバイスをしたり、クライアントたちが集まって一緒にランチを食べるときなどに「1人45秒ずつ仕事内容の説明をしてください」といった提案をすることもある。各フロアの壁には、クライアントのプロフィールやスタッフ募集の告知などを掲示するスペースがあり、ここをきっかけとしてコラボレーションが生まれていくことも少なくない。

開設:2005年
クライアント:75名と5社

Republikkenは、コペンハーゲンの中心にあるクリエイターと起業家のプラットフォーム。デザイン、グラフィック、通信、職人、工芸などの分野が専門の利用者が多い。利用者は、男女はもちろん、年齢層も幅広い。
http://republikken.net/

メディア関係者が集まるスペースの2階の様子。予約して、最低3カ月から1カ月単位で契約できる席もある。

2階のカフェテリア兼ミーティングスペース。テーブル上に皿にあるナッツは、自由に食べてよい。

ラウ・ゴットハード・クリステンセン
Lau Gotthard Christensen
パートナー(共同経営者)

  • 建築関係の利用者向けスペース。隣接する業界の人達は自然とまとまったエリアで作業するようになっていった。

  • 建築関係の利用者向けスペースのエントランス。写真の男性は、リパブリケンのコンシェルジュ。利用者から相談を受けると「あの人に聞いてみたら」などとアドバイスをくれる。

  • 一般の人も利用できるカフェのスペース。利用者が顧客との打ち合わせに利用することも。営業時間は8〜17時(月〜金)。

  • 3Dプリンタなどの機材が一通り揃う工作室では模型をつくることができる。さまざまな人から即座に意見や感想を聞けるため、クリエーターには刺激の多い環境だ。

利用者自身が空間を作り込み
家族的な場の形成に参加する

リパブリケンでは、「家族的な雰囲気」も大切にされている。例えば、オープン・オフィスのキャプテンを任されている男性がリパブリケンで働き出して5年目を迎えたとき、「お祝いをしよう」という動きが自然に起こった。それはクライアントたちが自主的に計画したことだったが、オーナーたちが、ここを「アットホームで愛着の湧く場所にしよう」と考え、方向付けてきたことも大きい。

ここでの特徴的な活動の1つとして、自分たちの働くスペースをクリエイターでもある利用者たちは、自らデザインしている。改装が行われるときには、皆で空間デザインのアイデアを出し合うし、テーブルや椅子、棚、インテリアなどは、すべて建築関係のデザイナーたちが制作したものだ。壁にはグラフィック・デザイナーによるアートが描かれている。こうしたオフィスづくりは、既製品を用いるより時間も労力もかかるが、リパブリケンでは、そこに力を入れてきた。こうした活動の1つ1つが、クライアントたちにとって、ここが借り物のスペースではなく「自分たちの場所」であるという意識を深めることにつながるからだ。

利用者の交流がそのままビジネスチャンスへ

オーナーたちは「人々をつなげ、ビジネスチャンスを起こしていく」という課題意識を持っているが、クライアントたちの活動に過剰に介入することはしない。基本的には、彼らの自主性と自然な成り行きに任せている。そのバランス感覚は、設立以来の試行錯誤の中で培われてきたものだ。

例えば、業種・職種を問わずに席替えをして、異なる専門性を持つ人たちの接点をつくろうとしたことがあったが、この試みは成功しなかった。「大抵、グラフィック・デザイナーとウェブ・デザイナーはやはり一緒に働きたがりますし、建築家と工業デザイナーも一緒に働きたがるのです」(ラウ氏)。

現在、オープン・オフィスは、主にメディア関係のクライアントが集まるフロアと建築関係のクライアントが集まるフロアに分けられている。2つのフロアの間はキッチン・スペースがあり、壁で隔てられているが、それで交流を遮断してしまったわけではない。キッチンにコーヒーを淹れにきたちょっとしたときや正午のランチに加わるタイミングなどに、それぞれのフロアのクライアントたちが出会い、会話を交わす、程よいコミュニケーションの機会が残されているのだ。

プロジェクトの参加メンバーを募るポスターなどが貼られている。利用者は、多様な仕事を通しで自分の能力を活かし、伸ばしていくことができる。

イベントなどに利用する大スペース。写真のように照明を変えて、、赤、青、黄、緑などの光で演出できる。

4〜6人用の打ち合わせスペース。クローズドな場所で議論がしたいときなどにも使われる。

ウイングと呼ばれるオフィス空間が3つあり、画像はそのうちの1つ。リパブリケンの敷地全体は合計で約2000㎡と非常に広い。いくつものアパートをつなげているのでいりくんだ構造になっており、それがかえって各室の個性を引き立たせている。

360°View

ウイングと呼ばれるオフィス空間が3つあり、画像はそのうちの1つ。リパブリケンの敷地全体は合計で約2000㎡と非常に広い。いくつものアパートをつなげているのでいりくんだ構造になっており、それがかえって角室の個性を引き立たせている。

※画像をタップすると360°スライド表示が見られます

「リパブリケン」という
コミュニティ文化を外部に発信

リパブリケンを1つのコミュニティとする対外的なイベントも積極的に行われている。クライアントたちの能力を活かした「グラフィックデザインの知識を深めるためのイベント」やランプ・シェードをつくるコンテストなどは、リパブリケンの知名度を高めるとともに、人的ネットワークを外部に向けて広げていくことにも役立った。

2012年のクリスマスには、渋谷にあるものづくりカフェ「ファブカフェ*」ともコラボレート。リパブリケンとファブカフェ、双方のクリエイターたちがツリーに飾るオーナメントをデジタルで制作し、そのデータをメールで交換、それぞれがレーザーカッターで切り出して実物のオーナメントにするというユニークなプレゼント交換だった。こうした共同作業やイベントなども思い出として共有しながら、コミュニティ意識は深まっていく。

「リパブリケンが持続的に大きくなっていくために、ここが収益の発生する場所であることは大切ですが、それだけではありません。ここで働く人々が築き上げていくカルチャーが大事なのです」とラウ氏。クライアントたちは、そこに貢献することに喜びを感じている。そのカルチャーはまた、コワーキング・スペースとしてのリパブリケンの価値を高め、新しいクリエイターたちを惹きつけていく。

WEB限定コンテンツ
(2013.1.28 デンマーク コペンハーゲンのオフィスにて取材)

高性能プリンタや製本のための設備も用意されている。高額な設備を気軽に利用できるのは、個人にはありがたい。

*ファブカフェ(FabCafe)
http://tokyo.fabcafe.com/

ロフトワークが運営している渋谷道玄坂にあるカフェ。クリエイターが集まり、誰でもカジュアルに参加できる場として誕生。3Dプリンタやレーザーカッターなど、さまざまなデジタル工作機器を予約して使える他、ワークショップに参加したり、アーティストやトップクリエイターなどのトークイベントなども行って いる。リパブリケンとは、共同でオーナメントを作るイベントを行った。
http://www.loftwork.com/blog/news/fab-christmas/

いくつかあるキッチンの1つ。ランチをシェアするなど、お互いのネットワークを広げる活動も積極的に行われている。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

RECOMMENDEDおすすめの記事

「学び」をエンタテインメントに変える体験設計

[水野雄介]ライフイズテック株式会社 代表取締役 CEO

日本のものづくり停滞の根はどこにあるか

[藤本隆宏]東京大学大学院経済学研究科 教授

TOPPAGE
2022年7月、「WORKSIGHT[ワークサイト]」は
「自律協働社会のゆくえ」を考えるメディアへと生まれ変わりました。
ニュースレターを中心に、書籍、SNS、イベント、ポッドキャストなど、
さまざまなチャンネルを通じてコンテンツを配信します。

ニュースレターに登録する