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「参加型デザイン」になぜ企業が期待するのか

複数の専門家を巻き込むこれからのモノ作りの姿

[安岡美佳]コペンハーゲンIT大学 IxD研究グループ研究員

モノ作りに再びイノベーションの息吹をもたらす考え方として、あるいは、従来のモノ作りに変化をもたらす新鮮なプロセスとして、日本企業が参加型デザイン*に寄せる期待は、年々高まっているように思います。特にそれを実感するのは、この2〜3年のこと。でも、参加型デザイン自体は、さほど目新しいものではなく、実は1960年代から登場している方法論です。

そもそも参加型デザインとは何か。私は、参加型デザインを「背景知識の違う専門家たちが集まり、何か1つのものを作り上げていくプロセス」と定義しています。

建築で例えてみましょう。ある大きな建物を作るときでも、かつては専門家として大工さんがいれば、すべてを取り仕切って完成に向かうことができました。でも、それぞれの工程が専門化、高度化した今は、エンジニアや空調業者、建築家、内装デザイナーなど、多くの専門家を動員する必要があります。それもプロジェクトの初期段階から彼らを巻き込んでおくのがいい。後になって「建築家にとってはOKでも、内装デザイナーにとってはNG」といった状況が生じるかもしれないからです。これが参加型デザインの根本的な発想です。

日本企業の中にも、同様の問題意識を持つところが増えています。ユーザーの意見を取り入れて商品やサービスを開発したつもりなのに、いざ完成品を売り出すと「別にこんなもの欲しくない」とそっぽを向かれてしまう。よくある話です。だったら、ユーザーとの関わりは、ヒアリングで事足れりとするのではなく、一緒になって商品やサービスを試行錯誤するプロセスとして考えるべきではないのか。参加型デザインが、それではないのか。企業はそう考えているんです。

平等性×ユーザビリティ×クリエイティビティの効果

先ほど言いましたが、参加型デザインの発祥は1960年代に遡ります。ただし2つの潮流があり、目指すところが異なります。

1つは北欧型で、「平等主義・民主主義」を重視する考え方。スカンジナビア半島で起こった労働者運動がきっかけだといわれています。もともと欧州は身分の差が著しく、企業においてもマネジメント層と現場で働く人たちの立場が大きく乖離していた。しかし、現場の人たちが自分の権利を主張するようになると、研究者たちも彼らをサポートしました。利害関係者を平等に巻き込みながら合意形成を図る手法が模索され、それが参加型デザインと呼ばれたのです。

もう1つの潮流が、米国型です。こちらは北欧型と比べると「ユーザビリティ」重視の考え方が強い。商品をより多く売りたい。そのためにユーザーが納得するものを作りたい。ならば、ユーザーをデザインの場に招いて一緒にデザインをしていこう。そんな思惑から、消費者を招いたワークショップなどを積極的に行うやり方です。こちらは、1980年代から盛んになりました。

現在、企業が参加型デザインに注目しているのも、「平等性」と「ユーザビリティ」を期待してのこと。加えてもう1つ、「クリエイティビティ」に対する期待も大きくなっています。

3人寄れば文殊の知恵といいますが、いろんな人たちが集まると新しいものが生まれやすくなります。実際、イノベーションの多くは、ある1つの分野の中ではなく、分野と分野のスキマで生まれていることが多い。確かに、背景知識が異なる専門家が集まればコミュニケーションが取りにくくなるきらいはあります。でも、参加型デザインは、まさにそのコミュニケーションをサポートするためのノウハウなんです。参加型デザインを取り入れることで、イノベーションを加速できるのではないか。イノベーションを実現できず閉塞感を抱えた企業が、そんな期待を寄せているというわけです。

*参加型デザイン
(Participatory Design)

エンドユーザーやその他のステークホルダー、外部の専門家などをデザインの過程に巻きこんでモノ作りの方向性を検討するアプローチのこと。北欧が発祥といわれ、日本でもイノベーションのための新たな方法論として、近年、注目されている。

北欧では民・官ですでに
実用レベルの定着度

参加型デザインの導入事例では、北欧が先行しています。よく知られているのはフィンランドのノキア。参加型デザインを取り入れて開発した携帯電話が世界市場で優位に立った。これは大きなサクセス・ストーリーです。彼らはもう「参加型デザインを試している」という段階ではありません。専門のデザインチームが社内に存在し、すべての開発プロジェクトに参加型デザインを組み込んでいます。

デンマークの高級オーディオ機器メーカー、バング・アンド・オルフセン(B&O)は、1970年代から参加型デザインを実践しています。彼らのスタイルは、1人の優秀な外部デザイナーを中心としたプロ集団が、参加型デザインのプロセスを進めていくというもの。その外部デザイナーが未来のユーザー代表となって、内部の音響専門家や外部のオピニオンリーダーたちとディスカッションを行います。

一見すると、1人のデザイナーが主導するプロセスに思われるかもしれません。でも実際は、デザイナーのアイデアがそのままのかたちで最終段階まで残ることはまずない。ディスカションを経て、まったく別のアイデアになったものが製品につながるケースのほうが多いんです。

参加型デザインは公共分野にも広がっています。デンマークは電子政府を参加型デザインによって実現しました。公共サービスについてのポータルサイトを立ち上げたのですが、インターフェイスが素晴らしい。そこには市民の声が反映されています。ワークショップを何度となく開催し、市民、ITベンダー、政府関係者を招いて議論をし、得られた知見をインターフェイスにフィードバック。サイトを利用する当事者にとって一番使いやすいインターフェイスに仕上げたのです。

大阪ガスが取り組む「ビジネス・エスノグラフィー」

翻って日本企業はどうかというと、参加型デザインの取り組みはこれからという段階だと思います。しかし、私のところにも企業から相談を持ちかけられる機会が増えてきていますし、ぽつぽつと事例が報告され始めています。

私が最近聞いた話で、非常に興味深いと思ったケースに大阪ガスによる取り組みがあります。彼らは「オフィスでの省エネ」という課題を参加型デザインによって解決しようとしました。ポイントは、「オフィスで何が起きているのか」を把握する、つまり「場を理解する」というプロジェクトの初期段階から、デザイナーやエンジニアといった、それより後の工程を担うメンバーが関わったこと。分析自体はリサーチャーが担当しますが、その結果をみんなでシェアし、そのうえで、一緒に問題解決の方法を考えていった。こうすることで、プロセスの初期段階から参加者全員が問題意識を共有することができたのです。

彼らはアウトプットとして、オフィス内の「省エネ指数」をオンライン上で見られるアプリケーションを開発し、社員全員で共有しました。例えば、社員のみなさんが夜遅くまで働いていると、省エネ的にはよくないので、できるなら、みんな早めに帰宅してほしい。そんなときにアプリ上で「ビール指数」や「お天気指数」を表示するんです。「今週はエネルギーを使いすぎたな」とアプリの運用担当者が思ったら、ビール指数を高くして「もうビールを飲む時間だから早く帰りましょう」といったメッセージを出す。面白いですよね。企画段階からさまざまな意見に揉まれているおかげで、社員がプロジェクトに参加しやすく、共感を得やすい表現がデザインされているわけです。

このアプリ自体は、誰もが驚くイノベーティブなもの、とまでは言えないかもしれません。でも参加型デザインを通じて、組織の一体感も養いながら、非常に民主的な職場づくりに繋げることができた。また、一度問題意識が共有された分、今後の取り組みもずいぶんスムーズに進むことでしょう。そういう意味で、大きな成果だと思います。

WEB限定コンテンツ
(2013.1.26 渋谷ヒカリエ8F Creative Lounge MOVにて取材)

デンマークの電子政府のホームページは、「役所」のイメージからは想像できないほどスタイリッシュ。住宅、社会保険、子育てなど、人気のページが上部にまとめられ、意見投稿ページへのリンクも大きく表示されている。政府が「見せたい」情報よりも、市民が「見たい」情報にアクセスしやすいつくりだ。「マイページ」も作れるので、定期的に閲覧して気になる情報(=政府の動き)も追跡しやすい。
https://www.borger.dk/Sider/default.aspx

安岡美佳(やすおか・みか)

コペンハーゲンIT大学 インタラクションデザイン(IxD)研究グループ研究員、国際大学グローバルコミュニケーションセンター客員研究員、JETROコンサルタント。慶應大学で図書館情報学学士を取得後、京都大学大学院情報学研究科にて社会情報学を専攻し修士号を取得。東京大学工学系研究科先端学際工学博士課程を経て、コペンハーゲンIT大学より博士号を取得。京都大学大学院情報学研究科Global COE研究員などを経て現職。

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