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生徒も学校も個性が伸びる、21世紀の教育を実現したい

世界観を共有して役割分担、権限移譲が機能する組織

[水野雄介]ライフイズテック株式会社 代表取締役 CEO

中高生がITを学ぶにあたり、主体性を引き出すことを重視していると前編で話しましたが、それは社内のマネジメントにも通じる話です。

例えば、当社のシンガポール支部の立ち上げは、25歳の若手社員がメインとなって行いました。それまでの仕事ぶりから、彼には高い志と折れない行動力があるとわかった。加えて本人の意欲もあったことから、シンガポールの支部設立や代表としてのマネジメントなどを任せたわけです。もちろん丸投げではなくて、要所は僕や幹部がチェックしたり相談に乗ったりもしましたけど、それでも大きな仕事をやり遂げたことで彼はすごく成長しました。

環境が人を育てる部分は多分にあると思います。僕はできるものに関しては、どんどん権限移譲するタイプですね。だから僕自身の仕事はあまりないんですよ(笑)。

チームの強さが発揮できるのは個人の能力が掛け算されたとき

人には得意なゾーンがあるんです。全員がすべてをこなせるスーパープレイヤーではないし、僕もそうじゃない。僕のいいところはここ、副社長のいいところはここ、このマネジャーのいいところはここと、しっかり見極めて最大限に任せるようにしています。僕ら経営陣の仕事は、その人の一番いい能力が発揮できる環境を作り、最終的な責任は取ることにあるのではないかと。

チームの強さが発揮できるのは掛け算になったときですよね。自分一人ではなし得ないこと、できないことを達成するためにチームがあるんです。それぞれの能力をかけ合わせられるようなチーム作りをするためにも、積極的な権限移譲が必要だと僕は考えています。

権限移譲を怖がる経営者の方もいらっしゃるでしょうけど、うちの場合はそもそも3人のチームで創業していますからね。最初の構成からそうだったわけだし、丁寧で密なコミュニケーションがあれば案外大丈夫ですよ。

みんながワクワクできる状況を作ることが組織を強くする

創業時の3人のメンバーの間では、自分たちを漫画『ONE PIECE(ワンピース)』のキャラクターに重ねていました。

僕が船長で、ワンピースを探しに行こうと目的地を決める、つまりビジョンを描く役割を担います。21世紀の教育を変革しよう、中高生のために仕事をしようといった、ぶれない軸を定めるわけですね。取締役副社長COOの小森(勇太)や執行役員の松井(晋平)も剣士や航海士など、それぞれのキャラクターをイメージして役割を分担していました。その後に参加してきた社員も、メンターとして中高生を指導してくれる大学生たちも、みんながひとつの船に乗るメンバーであり、全体として1つのチームなんです。

同じ本や漫画を読んだりするとイメージを共有しやすいですね。うちの会社には、社員がひとつの漫画セットを持ってくる社風があって、オフィスの別室に漫画セットがたくさん揃っています。どんな漫画を読んでいるかでその人の好みや志向が窺えるし、その漫画を読むことで世界観を共有することもできます。

イメージが共有できれば役割分担もしやすくなるので、結果として権限移譲のリスクも小さくすることができる。楽しく仕事に取り組めるようになるだけでなく、チームマネジメントにも有効というわけです。

そういう思いの共有の上に、描いたビジョンを実行する力が伴って、しかもそれが正しく機能していくこと。例えば中高生の力が伸びていく、楽しそうに学びを深める姿を目の当たりにできるといった成果があってこそ、会社として次のフェーズにシフトできる。ビジョンとそれに付随する実行力があって、みんながワクワクできる状況を作ることが組織を強くするポイントだと思います。


ライフイズテック株式会社はプログラミング・IT教育プログラム「Life is Tech ! (ライフイズテック)」の企画・運営、ワークショップ・エンタテインメントの企画・運営といった事業を展開。2014年には世界のICT教育組織をGoogleが評価する「Google RISE Awards」を東アジア地域で初受賞した。2010年7月設立。
https://life-is-tech.com/

『ONE PIECE』は、海賊船の船長ルフィとその仲間が「ひとつなぎの大秘宝=ワンピース」を手に入れて海賊王を目指す冒険譚。

地域格差や経済格差なしに誰でも学べる
「知のオープン化」が望まれている

ライフイズテックでは「21世紀の教育改革 6か条」を掲げています。

1. IT教育による、創造力の育成
2. アントレプレナーシップ教育による、実行力の育成
3. オンライン化による知のオープン化
4. 先生の力を最大化するプラットフォーム
5. 21世紀の学校
6. グローバルに学び合う土壌

第一の「創造力」というのは、単に技術力や発想力などモノを生み出す力ではありません。プログラミングやデザイン技法を習得して何をするかが問われているのです。自分の好きな業界や分野でテクノロジーを使ってイノベーションを起こす。それも人を幸せにするテクノロジーを生み出せる力、新しい価値を生み出す創造力が必要ということです。

第二に「実行力」を挙げているのは、新しく作ったものを広げていくことの重要性を示しています。高い志を持つこと、課題を発見する力、仲間を巻き込む力、あるいはアライアンスを実現するための交渉力やプレゼンテーション力も含まれるでしょう。そういう意味での実行力がないとイノベーションは起こせないと思っています。

第三が「知のオープン化」です。僕らの運営するキャンプやスクールに参加したいと思ったら、地域格差や経済格差なしに誰でも参加できる環境づくりが望まれます。中高生と接していると、ほとんどの子は能力に大きな差はないと感じます。環境によってその子の可能性が大きく変わってしまうのはもったいない。やりたいと思ったらできる状態をまず作ることが必要で、そのためにはオンライン化によるオープン化が求められるでしょう。

オンライン学習というとeラーニングが思い浮かびますが、1人での学習は面白さに欠けるような気がしますね。継続率が5パーセントくらいしかないところもあるようで、それはそんなところに要因があるのかもしれません。「Life is Tech !」は学びを面白くするものでもあるので、こうしたエデュテック分野にもチャレンジしていきたいです。

先生の仕事の核心はコミュニティマネジメント

第四の「先生の力を最大化するプラットフォーム」は、先生の負担を軽減して、指導により専念できる環境を作ることを意味しています。先生ってすごく忙しいんですよ。例えば1日4時間授業するということは、50分のプレゼンテーションを4回行うのと同じ。そんな毎日を送りながら、教材作り、部活動の指導、保護者対応、教育研究、学内調整などに当たるわけです。

このうち、例えば教材作成や部活指導のような、担当教員でなくてもできることを外部の手で軽減していけばいい。他の学校の先生と教材の基礎の部分を共有できれば、次の日の授業の準備にそれまで3時間かかっていたのが30分に短縮できるかもしれません。2時間半は生徒を見る時間に充てられるわけです。

どの段階にいる生徒に、どのタイミングで、どんな指導をするのか。また、席の配置だけでも変化するクラス全体の雰囲気をどう作り上げていくか。そうしたリアルなクラス運営を外部で代替することは難しく、コミュニティマネジメントこそが先生の仕事の核心だと思います。そこに注力してもらえる環境を作っていきたいですね。

もうひとつ、先生の力ということでは決裁権限を高める必要もあるでしょう。野球部の顧問を務める先生だとしたら、ボールが足りないとなったときに購入費用をスムーズに出せる仕組みがほしい。日本全体で教育予算は減っているので、そこを手当てすることも先生の負担軽減になるだろうし、ひいては子どもたちの成長の後押しになるはずです。

学校を持つ企業に社会的価値が認められる世の中に

いま言っているようなことを含めて、個人一人ひとりの能力を伸ばす教育体制を実現しようというのが、第五に掲げた「21世紀の学校」です。そもそも学校を変えないと、現場の改革は難しい。学校を民営化して、個性を伸ばす教育を実践する中高一貫校を作りたいと思っています。それはIT教育に特化したものというわけではなくて、もちろん21世紀にふさわしいIT教育も取り入れながら、創造力、実行力のある子どもが育っていく環境を作りたいんです。

理想的には、福祉制度の一環のような形で、自前の学校を持つ企業に社会的価値が認められるような世の中になればいいですね。それくらいになれば学校という存在そのものに個性や特徴が出て、教育の画一化が解消されると思います。学校運営については2020年くらいを目標に、事業推進に向けて着手できればというところです。

第六に挙げているのが「グローバルに学び合う土壌」を作ること。理想とする学校を国内だけでなく海外にも増やすことで、グローバルで学び合うコミュニティを形成したい。多様性を知ることで課題発見をする力が育まれると考えています。

前編でも話したように、僕らのビジョンの根本には日本の教育を変えたいという思いがあり、手始めに作ったのがITやプログラミングを学ぶ「Life is Tech !」という場だったわけです。「Life is Tech !」は軌道に乗りつつありますが、そういう意味ではまだまだ道半ば。より大きな目標に向けて、チーム一体でさらなる航海を続けていきたいと思っています。

WEB限定コンテンツ
(2017.4.12 港区のライフイズテック オフィスにて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Kazuhiro Shiraishi



ライフイズテックのオフィスの一角。解放感があり、風通しの良い社風をうかがわせる。このスペースはフリーアドレスを採用している。

水野雄介(みずの・ゆうすけ)

1982年、北海道生まれ。慶應義塾大学理工学部物理情報工学科卒、同大学院修了。大学院在学中に、開成高等学校の物理非常勤講師を2年間務める。その後、株式会社ワイキューブを経て、2010年、ライフイズテック株式会社を設立。14年に、同社がコンピューターサイエンスやICT教育の普及に貢献している組織に与えられる「Google RISE Awards」に東アジアで初の授賞となるなど世界的な注目を浴びている。

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